第6話 第二の一信の決心

中には、前世の記憶があるという子供もいるらしいが、基本的には、そのような事はごく稀で、一信もそのような記憶は、無い。


ただ、望月の日に生まれたり、

月をぼーっと見ていたり、無自覚で潜在的には、月と縁が残っている。

まぁそれらは、神々の配慮であって

当然と言えば当然なのだが、しかも

誓願を建てて自ら降りてきたのだし。

しかし、そのようなことを

初めから自覚していたら、人の営みをして行く上でまずいというのも

人の世というわけだ。


さて、前回の両親の相談事を

しばらくの間考えていた一信だが、

少し不安を抱いていた。

それは、少年が抱えるごく自然な不安だ。

「僕と友達との心が離れ離れになってしまうかもしれない」っというものだった。

一信一家が貧乏であると同時に、友達たちもそう裕福ではなく、学識が乏しいため、一信を先生のように慕ってくれていた。

そう。友達も学びを得たいことを悟っていたのだ。自分だけ優遇されて、

他の子たちが僕を嫌にならないか。

他の子も誘おうか、などなど

学びを進めたいのは山々だし、

そんなに有難い話はないと思ったが、

ただ友達を失う恐怖は、付き纏っていた。


そう暗い顔をしてたら

いつものように、友達たちが山へ行こう!と遊びの誘いをしてきた。

「おいどうした?なんか暗いぞ?」

流石は、毎日一緒なだけあって

すぐに暗い顔を察した友達が心配した。

「いや、ちょっと考え事があって、たまたま難しい事考えてた時にお前たちが来ただけだよ。さ!いこっか!」

内心ドキッとした一信は、適当に誤魔化して

山へと向かった。

いつものようにこの葉っぱはねー。とか

このツルの下には、芋がある。とか

その様子に関心する友達たち。

しかし何かを教えるたびに切なくなってくる。だんだんと込み上げてくる何かを感じた。

そしてある友達が、あ!あの虫何?っと

言った途端、もう耐えきれなくなって

その場で大声あらげて膝をつき

顔に手をやり泣き出してしまったのだ。

今日の一信は、少し変だとは、わかっていたが余程の事があったのだろうと、はじめは、驚いたが、すぐに優しく語りかける友達たち。「今日はずっと何か苦しそうだったからずっと俺たち心配してたんだぞ?おまえは、俺たちの友達だろ?余程辛い事があったのか?話してくれよ」っと

失いたくない者たちの目の前で隠しきれない葛藤を恐る恐る友達に話をした。

そしたらある1人の友達が、

「ばかやろう!!おまえは、そんなことでせっかくの話を躊躇していたのか!おまえの親と和尚がどれだけ真剣におまえを思ったことか!そしておまえが俺たちより賢いのを俺たちが妬んだ事が一度でもあったか!自慢の友達の活躍を妨げる様な仲だったか!自分勝手に自惚れてるならここで一発目を覚ましてやろうか!」っと胸ぐらを掴み、一信の顔は、それはそれは嬉しくて嬉しくて涙でぐしゃぐしゃになってしまい、また胸ぐら掴んだ少年も、一信の感動の涙を貰い泣きして、抱き合った。他の子供達も同様だ。「これが絆というものか」温かい気持ちに包まれて、

一信の魂は、そうつぶやいた。

そうだ。僕は、友達を信頼しきれてなかった。ありがとう。君たちは、僕をずっと信頼してた。僕は、堂々と進む事を決意ができた。そして、なんでも話せる友達の存在がとても宝物に思えた。


ありがとう。


そう皆に伝え

仲間を失うどころか

絆が深まり、手をつなぎ合って

横になって山を降りたのだった。

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