第5話 人間 一信の誕生

生年月日1930年10月06日

とある夫婦の間に第一子誕生

その日は、十五夜で望月が輝く夜だった。


名前の所以は、

人を信頼し自分を信頼しなさい。

たとえ進む道が1つしか無くなっても

信じて進みなさい。という意味を込めて、

「一信、いちのぶ」と名付けられた。


田舎の山麓で、貧しくも平穏に暮らしていた夫婦の待望の子宝だ。後に兄弟は、いなく

一人っ子である一信は、とても大切に可愛がられ、両親の愛情をたっぷりと受け、他の子供達とも元気に野山を走り回っては、夕方に腹を空かせて泥だらけで帰ってくるような元気の良い子であった。


田舎であるので、夜になると晴れていれば

満点の星空に、暦でその日が満月なら

大きな大きな月が見え、縁側からぼーっとその様子を見ている様を両親が、そっと素敵な子ねっと微笑ましく見守っていたという。


両親は、貧しい自分たちがいつ病に倒れて

一信に迷惑がかかるかわからないため、もしもの時自分でなんとか知恵が振り絞れるように、早々に勉学の楽しさを教えようと、

まずは、読み書きを学ばされるために

街へ出ては、古本を土産に買ってきて

決して安い買い物ではないが、一信に読み聞かせをしていた。一信は、とても素直な子でその本の内容が興味の有る無しがすぐに顔に出たので、だんだんと分野が限られて父親は、あぁこの子は、自然などの分野が学びたいのだなっとなんとなく理解したが、私が強制してはいけないと、ある日、他分野も豊富に載っている「百科事典」を奮発して購入し一信へ渡した。


今まで読み聞かせをしてきた甲斐があってか

知的好奇心旺盛で、

飲み込みの早い一信は、読むことは、大抵できるようになって、文章も簡単なものなら書けるようにはなっていた。

しかし余程難しい漢字や熟語に関しては、

父親の辞書を引いてもらい意味を知っては、

感動していた。いちいち新しい発見があると

感動するので、その様子が父親には、おかしくて「おまえは賢いなぁっと」笑って褒めていた。いつしか自分で辞書を引けるようにもなっていた。


そんなわけだから「百科事典」は、

一信にとっては、とてもとてもワクワクしたことだろう。そんな類の本があるなんてと言わんばかりに、現に目がキラキラと輝いていた。この時一信7歳である。


両親は、勉学の才能をこの子には前々から感じていて、このまま村に埋させておくのは、勿体ないから、なんとか学校に通わせてあげたいと思っていたが、なんせ貧乏であったために学費等の当てがなく困っていた。

そこで、相談役も担っていた学識も備えた近くのお寺の住職に相談に行ったのであった。


和尚は、かくかくしかじかでとのことで

「銭が無きゃ学校へは行けん。

じゃが1つ方法は、ある。15歳までは、ワシが一信の先生になってやる。16からは、独学を極めよ。そのための修行にもつきやってやる。そして大学まで行くならば、素質と成績があれば入れんでもない。もうその歳くらいなら、自分で働きながら学べる。」

両親は、流石は和尚と感心の表情を

浮かべるまもなく、和尚は、続けて

「じゃが条件がある。本気で学びたい。これが第一。そして、寺の掃除や本尊への合掌など礼儀作法を学ぶことが第二。第三に、一信自身にそれを決めさせる事だ。いいな?おまえたちのエゴで、押し付けてはならぬぞ。いつでもよい。決心がついたら来なさい。まぁワシの寺は、おまえさんたちのすぐ近所じゃ。

そう焦らんで良いでな。」

和尚の言いつけをしっかりと肝に命じて、

両親は、帰った。


帰宅すると、一信は、相変わらず仲間達と山や川で遊びに出かけたのか、留守だった。

その時の一信は、友達に例の百科事典で習った山草や魚の名前など教えるようになっていて、友達に「これなーに?、こういうやつを見つけたい!」っと友達の先生みたいな存在になってて、遊びに出かける時は、必ず一信の家まで来て連れて行くのであった。またそれが互いに楽しかった。


夕方、一信が帰ってきたので、

昼間の和尚の話を聞かせると

少し考え事をしたような様子だった。

「まぁまぁそう焦らんでいいとのことだから、重く考えず、おまえの好きな道を選びなさい。嫌なら嫌だと言っても構わないんだ。だーれも怒りはせんからな。ただお前が勉学が好きならと相談してきたのだ」

一信は、ひとこと

「おとう。おかあ。ありがとうございます。

しばらく考えさせてください。」

っと両親に対して初めて敬語で真剣な眼差しで言うものだから、両親かしこまってしまい、「・・・さ!晩飯だ!腹いっぱい食ってくれよ!おまえ腹減ってんだろ!」っと

内心どう出るかワクワクしながら

切り替えるのがやっとであった。


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