第4話 イチノブの決心

ツクヨミは、平和な月を見守りながら

イチノブも心配しながら様子を伺っていた。


イチノブは、ツクヨミから知らされた

仏の説法に目を輝かせると同時に過去に自分が出会った悪天の言った言葉が忘れられず、1人葛藤していた。ツクヨミにその件について仏様は、なんて仰ったか?などとは、ごく私的な事であって聞くに聞けなかった。現にあれ以降全く現れないのだし。きっとツクヨミ様が解決してくれたのだろうと勝手に蓋をしていた。仲間の月天達は、相変わらず楽を得て舞いをしたり、歌ったり、と楽しんでいたが、天人の多感な時期に1人だけ体験した事のある誰にも相談し難い事に初めて"苦しみ"というものを感じた。あいつさえ現れなければ、何故自分だけ、他の天界の者は、それからどうしたのか?など天人らしからぬ自問自答に明け暮れて、自分の宮殿に篭りがちになってしまった。


その様子を憐れんだツクヨミは、

たびたび月の宮殿へイチノブを呼び慰めていた。事の真相は、「菩薩が仏界へと招くため、世のため人のためにあえて姿を変えて現れ縁ある者を見抜き与えた試練である事。その邪魔をしてはならない」と仏に言われているので、イチノブには、真実を伝えれずツクヨミもまた同じように葛藤していたわけなので何も知らないイチノブが可愛そうであり、イチノブが来るとまた自身も癒されていたのであった。天界での苦しみは、日に日に増していき、イチノブは、ツクヨミに告げた。「ツクヨミ様。仏様の説法は、誠に素晴らしいものであります。しかしそれだけ素晴らしいのに、何故、悪天のようなものが、心に闇を産ませるのか。何故人間には、幸を与えるのか。これのどこが平等でありましょうか。私は誓います。私自身が成仏し、そやつに説法をしてさしあげますことを。天界では、楽が高じてせっかくの説法をすぐに忘れてしまいます。私を人間に下生する事をお許しくださいませ。私は天界で生まれて初めて苦しみを知った。これが人間達の苦しみ。そんな中彼らは懸命に生きていると聞き、だからこそ悟れる何かがあると知りました。よって自ら天の羽衣をお返しいたします。人間と共に苦楽を学びそして人間として生を受け死ぬまで何かを悟ってみせます。こうして苦しむ私のようなもののために人間に生まれ学びを得たいのです。」 


普段は、温厚で控えめだったイチノブの

しかも天界から人間への下生がしたいなどと言い出す者は見たこともなく。

その本気の度合いは、すぐに伝わった。

もちろんそれだけでは、許さないが、

仏の言っていた事がこの事だとも

すぐに分かっていたツクヨミは、

その事を許した。

「そなたの心構えには、感服した。

私もそなたのようなもののひとつだ

私はここでそなたを見ておる。

それと私も共に救ってくれ」と、

一言添えて。


そうして、イチノブの下生儀式は、

親類以外には、秘密裏に行われた。


ツクヨミに天の羽衣を返納し、

地球を見つめるイチノブの体は、

砂漠の砂が風に吹かれるが如し

さぁーっと音を立てて消えた。


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