第3話 悪天との遭遇
イチノブが悪天の存在を知ったのは、
250年程前、まだ少年時代だった頃である。
天人同士の噂で、
突如として広大な世界へ現れて
各地に出没し
さらに人間界へも災いをもたらしている
と耳にしたのが始まりだ。
無論、神々もツクヨミもその存在は
知っているが、"実態が掴めず"
具体的にどのような災いをしたのか
など詳細が神々の神通力にしてもわからずにいた。なのに未だ平和な世でありながら、災いをもたらすなどという矛盾な
存在が実在している事だけしかわからなかった。
そんな頃だった、イチノブが他の仲間と宮殿で人間の真似事で「かくれんぼ」をして遊んでいてイチノブが鬼役で十数え終えて、目を開けて振り返ると、見た事も膨大な知識にも無い者がそこに立っていた。噂を記憶していたイチノブは、それがすぐに悪天だと気づき恐れ慄いて、立ちすくんでしまった。
悪天は、何もしてこなかった。
たった一言だけ
「人にも天にも悪はいるのだよ」
と言ってフッと消えた。
消えて少しの刻の間、呆然としていたが
ハッと我にかえり、仲間がまだ遊んで隠れているが、お構いなしに、すぐに月の宮殿へと飛んで行った。ツクヨミに事の有り様を伝えた。深く怯えた様子のイチノブをツクヨミはなだめて、神通力でイチノブの視覚を得て、見た有り様を読むが、ツクヨミでさえ全く見た事のない、しかし、どことなく悪天と呼ばれるほどの悪を感じさせ無い不思議な存在が浮き上がってきた。
ツクヨミは、「大丈夫後は任せなさい。君はおかえり」と優しくイチノブの頭を撫でて、
イチノブは、少し安堵し自分の宮殿へと帰った。
それから250年、月には、悪天は現れず
同じような現象が、他の世でたびたび報告された。他の天界ではイチノブのように目の前に現れて先ほどの文言を言い消える。
ただのいたずらにしては、その悪天そのものが神に近い存在もあってか相当な年月を生き延びているため、ますます不思議なのだ。
人間界は国津神がいるので、天津神からの信託で、すぐに国津神達もその存在を知っていて警戒は、していたが、人間に対しては、どうやら災いというよりも吉報を知らせている様子だった。しかも偽の吉報ではなく、ほんとにその通り幸が来る。その様子を天津神に報告するが、誠に不思議な事だと、神々も困っていた。
そうして、
かくれんぼから、250余年たって
イチノブが青年期と同時期に
地球では、紀元前約600年に当たるとき
突如地上に「仏」が現れたのだ。
そうまさに釈迦仏である。
釈迦仏誕生は、
ツクヨミ達神々は、兜率天の存在を
知っていたために、遥か前に予知してたが
ついに来たかと待ち侘びていた。
三世諸仏に聞く術もあったので、
とうの昔に聞きに行っているが、
次に地球に生まれる仏に聞くが良い
との事だった。お釈迦さまなら、知っているはず。
天界はただでさえ人間からすると無上な程
事件など起きないから、悪天などという得たいも知れない者は、脅威なのだ。
心待ちにした仏の誕生により
ここぞとばかりに、各世界の神々は、
沢山の豪華な供物と
曼茶羅華や甘露の雨を降らし、讃嘆し礼し
説法を聞きに出向き、質問をしたりした。
その機会を得たツクヨミも
同様に敬い礼し、
事の一件について質問した。
「かつて何百年も前から、我々天界と人間界に悪天という名の誠に不思議な存在が天界ではいたずらのようなことを、人間には幸を与えており、我々としましては、どうも実体の掴めず、落ち着かないのであります。いったい彼は何なのでしょうか?」っと。
仏は、答えた。
「悪天という者は、どこにも存在しない。
そなたたちの指す者は、善悪などで動いてはいない。天界ではいたずらを、人間には幸をとのことだが、これは配慮である。この者は、菩薩である。本性は、変幻自在に隠して、縁ある者の前にしか現れない。またその者のためになる時のみ変化して姿を表す。さて、どの仏がよこしたか我が成道する以前の遥か昔の仏が今現在も説法をしておられる。その仏の仏国土から来た菩薩である。これは、混乱を避けるために神々にのみ伝える。月天のイチノブとやらは、どうでるか。私は知っている。暖かく見守るのだ。決して妨げてはならない。」
説法を聞き、質問に対して
仏がそのように言うと
まもなくその日の集まりは解散した。
ツクヨミは、月天達に仏の法だけを
伝え、質問の事は、おおよそ察しがついたので秘めていた。イチノブが動き出すまで待とうと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます