第27話
「研修生のみんな、出てきてー」
あいらちゃんに呼び込まれ、美湖ちゃんを含む四人が戸惑った表情で登場した。あいらちゃんとお揃いのライトブルーのTシャツを着ていた。
「はい。研修生のみんなも知らないことを今から言っちゃいまーす!」
でででででん、と口でドラムロールをして、あいらちゃんがマイクに向かって声を乗せる。
「この四人の研修生がユニットを組み、デビューを目指すことが決まりましたー! おめでとー!」
会場が盛り上がり、ステージ上の研修生が顔を見合わせて驚いて、泣き崩れる子がビジョンに映し出された。
私の頭は真っ白になりながら、ビジョンで美湖ちゃんの様子を見る。
ビジョンに大写しになった美湖ちゃんは、唇をかみ、ぎゅっと目を閉じた。閉じた目からは、涙が途絶えることなく流れ続けていた。
「ね、ちょっと彩葉ちゃん! 美湖ちゃんが!」
莉朋は放心したように、そこで言葉を切ってステージをただ眺めた。その横顔も含め、どこか夢の中のようだった。
嬉しい。美湖ちゃんの夢が叶った。
それと同時に、美湖ちゃんとは別々の道を進むんだなと思って、寂しくもあった。
半年の間、ここまで一緒に頑張ってきた日々が頭の中を駆け巡る。
一番最初に出会った時。それは、新人研修生として、先輩研修生に挨拶する日だった。
事務所の会議室で緊張しながら待っていると、マネージャーさんに連れられた美湖ちゃんが部屋に入ってきた。
「こちら、
私たち二人を置いて、マネージャーさんが部屋を出た。
私も美湖ちゃんも、当時はどちらも話せなくて、しーんとした部屋がすっごくいたたまれなかったのを覚えてる。
「あの、彩葉ちゃん、って呼んでもいいかな?」
美湖ちゃんが微笑みながら、遠慮がちに声をかけてくれた時、なんて可愛いんだろうって思った。この子がいるだけで、きっとみんな優しい気持ちになれる。そんな柔らかい笑顔だった。
「うん、いいよ! えっと……」
明らかに年上の美湖ちゃんに対して、敬語とかさん付けで呼ぶか悩んだけど、美湖ちゃんは「同期だから、美湖ちゃんでいいよ。あと、敬語もなしね」って言ってくれた。
そうそう、研修生ライブで歌う曲が上手くできなくて、本番のステージでは外された時があった。
悔しくて、でも泣いたら負けだと思って、元気なフリをしていた。
どんなに頑張ってレッスンしても、私は他の子より覚えるのが遅い。
だったら、次のライブでは人よりたくさん練習しなきゃって思って、お小遣いはたいてカラオケボックスに行ったんだ。
でも、我が家のお小遣いって月二千円。一人二時間、ワンドリンク制で八百円のカラオケには二回しか行けない。
どうしようかなって思った時、美湖ちゃんが「練習に付き合って」とカラオケに誘ってくれた。二人なら、二時間千円。つまり、一人当たり五百円になるから、四回も通える!
しかも、美湖ちゃんはほとんどの時間を私の歌の練習にあててくれたんだよ。
美湖ちゃんは、練習したくてもできなかった私を、さりげなく助けてくれた。
恩着せがましいわけでもなく、かといって「全部おごる」っていうように貸しを作るでもなく、対等な友達として。
そうやって、美湖ちゃんと過ごしてきた研修生生活は終わるんだ。
いくら先輩たちが優しくても、これからはきっと、心がひとりぼっちになるんだ。
どうしよう。我慢しようとしても、涙が出てきちゃう。
莉朋にバレないように手でぬぐうけど、追いつかない。
寂しい。
美湖ちゃんのいない研修生なんて……やめちゃおうかな。
そう思ったところで、あいらちゃんが次の言葉を発する。
「とはいえ、この四人でデビューするのではありませーん。新たに研修生が加わったり、一般オーディションを行う予定です! お楽しみに~。あ、私は研修生の公式お姉さんだから、みんな私のお姉さんぶりも応援してね!」
あいらちゃんの言葉に、あいらちゃんファンの人も盛り上がる。
「彩葉ちゃん、美湖ちゃんと同じグループになるチャンスじゃん!」
莉朋が、無邪気に話しかけてくれる。客席は暗いけど、たぶん、泣いているのはバレている。
でも、新たな研修生が加わる可能性……てことは、私もチャンスがある! ってことだよね。
「そうだね、私も頑張らなきゃ!」
しぼんでいた心が、息を吹き返した。
ステージ上の四人はすでに、涙を流しながらもお客さんの方を見て、微笑んでいた。
私だったら、浮かれて騒いじゃうなぁ。みんな、ユニットに選ばれるだけあってもうプロだよね。
この四人に追いつくことができるのか。不安はあるけど、精一杯やるしかない!
泣いている場合じゃないぞ。
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