第26話
あいらちゃんのライブ、東京公演の日。
お客さんの入場が終わったあと、研修生たちは薄暗い会場内を移動し関係者席に着席する。
会場は、研修生ライブで使用する所よりも収容人数が多いホールで、あまりの広さにびっくりしてしまった。
あいらちゃんは、この人数のファンの人に、元気を与えられるんだ……。
ステージには緞帳が下りていて、ステージの様子はわからないけど、大きくてきれいなセットがあるのだろう。研修生ライブにはセットもビジョンもないから、いったいどんな気持ちで美湖ちゃんは踊るのか、私までソワソワしてきた。
となりに座る莉朋は、関係者席からの良い眺めに興奮している。関係者席は二階席の真ん中にあるから、真正面からステージが見える。
研修生の先輩たちからは「可愛い」「カッコいい」の連呼で、愛されている。そうでしょ、莉朋は可愛くてかっこいいんだ!
莉朋の手には、ペンライトを二本装備。美湖ちゃんの好きな色である白と、あいらちゃんのイメージカラーであるライトブルーを点灯させる。
「疲れたら、すぐに言うんだよ」
莉朋は疲れても口にしないだろうから、私が気を付けて見てあげないと。今日は私が保護者だからね! って言っても、おとうさんに車で送り迎えしてもらってるんだけどね。おとうさんは駐車場でお留守番。
会場内が暗くなり、緞帳が上がる。そして音楽が流れ、きらびやかなセットの中央にあいらちゃんがひとり立つ。お城のようなセットで、お姫様のような、白とピンクのふわふわな衣装を身にまとったあいらちゃんに、スポットライトがあたっていた。
あいらちゃんの背後の大きなビジョンに映し出される表情は、きれいで可愛くて直視できないほど。
客席からは歓声が沸き、音楽に負けじとあいらちゃんの名前を呼ぶ人もいた。
曲のイントロが流れ、あいらちゃんはパフォーマンスを始める。
会場の熱気が数段あがったと感じて、私は震えてしまった。
「すごい……」
これまでもあいらちゃんのステージは何度も見たけど、一目見てパワーアップしていた。歌もダンスも表情も、すべてがプロだ。
美湖ちゃんはいつ出てくるんだろう、こんなにもすごいあいらちゃんのバックダンサーって、大丈夫かな。私が心配できる立場でもないけど……。
一曲目が終わり、二曲目のイントロ中に研修生が舞台袖から出てきた!
美湖ちゃんたちも、白とピンクの可愛いワンピース衣装を着ている。
可愛い! 似合ってる!
私と莉朋は、白のペンライトを一生懸命振りながら、美湖ちゃんを応援する。
しばらく一緒にレッスンしていなかったから、わからなかった。美湖ちゃんのパフォーマンスも、格段にレベルアップしている。あいらちゃんに見劣りすることなく、ステージの上で輝いていた。
「彩葉ちゃん! 美湖ちゃんすごいね!」
大きな音の中、莉朋はテンションをあげて応援している。まだ元気そう。
すごい、すごいよ美湖ちゃん。すっごく努力したんだね。頑張ったんだね。
スキルだけじゃなくて、笑顔もとっても可愛い。お客さんを盛り上げよう、一緒に楽しもうって気持ちが伝わってきて、見ているだけで笑顔になる。
私は、自分のことのように感動して、明るい曲調なのに泣いちゃった。
やっぱり、私にはまだまだ努力が足りない。けど、頑張らないと夢には近づけないってはっきりわかった。
あいらちゃんのライブは本編が終わり、アンコールとなった。なんと莉朋は、体調を崩すことなく楽しめている。莉朋が元気だと私も嬉しい。
「彩葉ちゃん、今日の美湖ちゃん一段と可愛いね。笑顔が素敵」
莉朋が私の耳に口を近づけて言う。私はうんうん、とうなずいた。
美湖ちゃん、二階席まで伝わってるよ!
お客さんからの「あいら! あいら!」コールが続く中、メンバーカラーのライトブルーのTシャツを身にまとってあいらちゃんが登場する。
「アンコールありがとー! さてみなさん。今日は私のライブツアー最終日です。楽しんでくれたー?」
問いかけに応えるように、拍手と声援があいらちゃんを包む。
「嬉しい! さてさて、今回は、はじめてアイプロ研修生にバックダンサーについてもらいました。バックダンサー目当てで来たって人もいるでしょー」
意地悪なあいらちゃんの声に、会場から笑いが漏れる。
すごいな、トークでもお客さんを盛り上げられるなんて。ますます尊敬する!
「研修生目当てでも、今、私のファンになってくれたらおっけーです。で、ここでお知らせがありまーす」
お知らせ、という言葉に会場がざわつく。
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