第25話
研修生活動が特にないまま三月は過ぎ、四月。新中学二年生になった。
あいらちゃんのバックダンサーに選ばれた、美湖ちゃんを含む四人は連日のリハーサルをして、ゴールデンウィークのライブに備えていた。
だから、あのお泊りの日以降はあんまり美湖ちゃんに会えていなかった。
「彩葉、最近元気ないねぇ」
学校で、紗那ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「美湖ちゃん、忙しそうで全然会えないんだもん」
「仕事とアタシ、どっちが大事なの? って感じ?」
「からかわないで、って言いたいけど、そんな感じ」
研修生のライブは、何度もステージで披露した曲をパフォーマンスすることが多いから、新たに覚えることは実はそんなに多くない。でも、あいらちゃんのオリジナル曲をイチから覚えなくちゃいけないから、研修生のライブよりも大変そう。
「寂しいなら、俺が慰めてあげる!」
鈴鹿くんが楽しそうに割り込んできた。
以前にも増して、鈴鹿くんがうっとおしくなった。
今はデビューしたくて仕方ないから、好きじゃない人と変な噂が出たら、鈴鹿くんを許せない。それに、紗那ちゃんの気持ちも知ってしまったから。
ムカついてしまい、私は鈴鹿くんを無視した。
「あ、無視されてやんの。ださっ」
紗那ちゃんが鈴鹿くんをからかう。いつもの鈴鹿くんなら、「だよねー」って明るく笑ってその場を去る……はずなのに、今日は違う。
心配になって鈴鹿くんの顔を見上げると、とってもキズついた顔をしている。
でも、目線は私じゃなくて、紗那ちゃんに向けられていた。
その表情に、紗那ちゃんは何も言い返せず、ただ二人は顔を見合わせ見つめあっていた。
鈴鹿くんも、紗那ちゃんを好きになったのかも?
沈黙が続く中、鈴鹿くんはぱっと表情を変えて、いつものニコニコ顔になる。
「だよねー、俺だっせー」
その場を離れる鈴鹿くんの背中を紗那ちゃんは心配そうに目で追った。鈴鹿くんはその足で教室を出る。
うわー! 今すぐ鈴鹿くんを追いかけて「今の何? 本当は紗那ちゃんのことが好きなんじゃないの?」って聞きたい!
でも、さすがにデリカシーがないよね。それに、誰かに写真を撮られてネットにあげられたらイヤだから、ぐっと我慢。
紗那ちゃんにわからないよう、小さくため息をついた。
悲しいけど、男の子との画像が流出して謝罪したりグループ脱退したりするアイドルはいる。デビューしてすでに人気者だっていうなら、学校内でのツーショットくらい大丈夫だけど、まだデビュー前の研修生のくせに……ってなると、話は別だろうし。
アイドルになる代わりに、自分の青春を犠牲にしているってまた鈴鹿くんに言われそう。「普通の女の子としての幸せはいらないの?」って。
いらないよ。だって「普通の女の子」では、みんなに元気を与えられないもん。
「鈴鹿、なんで私の方見てたんだろう?」
紗那ちゃんは不思議そうに言う。「鈴鹿くんも、紗那ちゃんが好きなんじゃない? 両想いだよ」って言いたいけど我慢。おせっかいなことをして、良い関係を壊したくない。
二人には二人のペースがあるもんね。
その日の放課後は、オンラインにて研修生活動の日。
研修生は遠方に住んでいる子も多いから、オンラインでのやりとりも多いの。
スマホを台にセットして、十人の研修生、ミキ先生、マネージャーさんが参加する。
次回の研修生のライブ日程や、スケジュールについての説明などがあり、最後にマネージャーさんから嬉しいお知らせが!
「富士あいらからの要望で、研修生全員をライブに招待することになりました。ライブを見て、勉強してほしいとのことです」
オンライン上に、きゃーという歓声があがる。バックダンサーに選ばれなかったけど、ライブは見られる!
莉朋にも見せてあげたかったなぁ、美湖ちゃんの晴れ舞台……。
「彩葉さん」
マネージャーさんではなく、ミキ先生が口を開いた。
「はいっ?」
びっくりした。なんだろう。
「前回のライブでは、弟さんのことを知らなったとはいえすみませんでした。お詫びとして、彩葉さんの弟さんもご招待したいのですが。他の研修生のみなさんには申し訳ありませんが、今回は私の罪滅ぼしだと思って許してください」
「えっ、いいんですか?」
莉朋を連れていけるのは嬉しいけど、他の研修生だって家族や友達を連れてきたいんじゃないかな。嫌がられないか心配になる。
研修生の中で、一番の先輩である綾菜さんが口を開いた。
「私は構いません。一番の先輩なのに、彩葉ちゃんが混乱していることに気付けなかったこと、ずっと気になっていたので」
「私も。彩葉ちゃんの弟くん可愛いからまた会いたい」「あたしもー!」
他の研修生からも声があがる。
「あ、ありがとうございます! 莉朋も喜びます!」
みんな優しい。嬉しい。
心がほっこりした。
「では、綾菜さん、菜津那さん、和花菜さん、美湖さんは残ってください。その他のみなさんはお疲れ様でした」
バックダンサーに選ばれているメンバーは、また別途お知らせがあるのだろう。ほっこりしていた心が寂しくなる。
「お疲れ様でした!」
悔しさを隠すように、あえて元気な声で挨拶する。
次は、私も残れるようにがんばるぞ!
そう決意し、退席アイコンをタップした。
すぐに、リビングで本を読んでいる莉朋にあいらちゃんのライブに行けることを伝えに行く。
「え、待って待って。富士あいらちゃんのライブに出ている美湖ちゃんを、関係者席で見ていいの?」
目を丸くして、びっくりしている。良いリアクション!
「え、でもそんな特別扱い……いいのか……えっ……姉がアイドルだとこんなことが? 元推しと現推しの共演が……」
混乱しすぎてまたぶっ倒れないか心配だけど、とてもイキイキしている。
やっぱり、アイドルは人を元気にできる素敵なお仕事だ!
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