第21話
すると、莉朋はふふっと小さな笑顔を見せた。
「彩葉ちゃん、心配性だな」
いつもの莉朋だ。安心したのと恥ずかしさで、その場にへたりこんでしまう。
「あー良かった! みなさん、お騒がせしてごめんなさい!」
半ばヤケになって大きな声で言うと、なんとなくその場の空気が優しくなった。
困ったときは元気が一番!
「彩葉さん、そういう時は大人に相談していいんですからね」
ミキ先生が、優しく言ってくれた。基本的にいつも怖いけど、ときどき本当のお母さんやおばあちゃんのような顔をしてくれる。
もっと、大人を信用していいんだ。さっきまで、中学生が頼み事なんてできないと思って絶望していた気持ちが安心に代わる。
「本当に、お騒がせしました。私たちは帰りますね」
おかあさんが莉朋の手を取ろうとすると、今度は莉朋が脱力したように床に座り込んだ。
「莉朋!? 大丈夫?」
私も大人たちも、驚いて莉朋に駆け寄る。やっぱり具合があまり良くなかったんじゃ……莉朋の身体が震えている。
莉朋は、私の後を見てこうつぶやいた。
「天使がいた」
それと同時に、白目をむいて倒れた。
えっ、と思って振り返ると、衣装のままの美湖ちゃんが驚いたように目を丸くして立っていた。
莉朋と美湖ちゃんが、こんなにも至近距離で出会ってしまった!
「莉朋くん、元気そうで良かったなと思って見てただけなんだけど……」
天使と言われた美湖ちゃんは、悪いことをしてしまったように、落ち着きなく私と莉朋を交互に見ている。
「元気そうだし、初めて莉朋くんとお話できるかなーって思ったんだけど、驚かせちゃったかな?」
「美湖ちゃんは悪くないよ! まだ莉朋にはこの至近距離は早かったみたい。控室に戻ろう」
おとうさんが莉朋をおんぶして、おかあさんがまたぺこぺこ謝って、帰宅していった。
はー、良かった。私もすぐ帰りたいところだけど……研修生は、ライブの反省会があるのでまだ帰れないんだ。
着替えを終えた研修生は、控室の椅子に座りミキ先生の到着を待っていた。
その間も、研修生の先輩たちは「弟くん、良かったね」と声をかけてくれる。
みんなライバルだし、レッスンやステージ上ではバチバチしてるけど、良い人ばかりで本当に嬉しい!
控室の扉がノックされると、ミキ先生が入ってきた。
「みなさん今日はお疲れ様でした!」
さっきまでの優しい顔ではなく、いつもの「厳しい先生の顔」に戻っていた。ずーっと優しい先生のままでいいのになぁ。
ミキ先生の後ろから小柄な女性が入ってきた。スタッフさんとは、違う。
ただ歩いているだけなのに眩しいほどにキラキラしてて、一瞬で空気が変わった。
いっきに、研修生たちがざわつく。
富士あいらちゃんだ、憧れの先輩!
「あいらちゃんだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます