第18話
あっという間に二曲終わり、トークコーナーとなった。
簡単な自己紹介を全員して、あらかじめ選抜されたメンバーが最近あった面白かったことを話す。
私は自己紹介だけだから気楽。でも、美湖ちゃんは面白かったことをお話しなくちゃいけないから、みんなが自己紹介している間もブツブツと話す内容を練習していた。
期待されるっていうのも、いろいろ大変。
その間、私は客席の家族を探す。ファミリー席と呼ばれる、子どもやお年寄りも着席してゆっくり鑑賞できる二階席を見ると、おとうさん、莉朋、おかあさんが並んで座っているのが見えた。客席は暗いけど、実は顔もしっかり見えるんだ。
莉朋はやっぱり白を振っていて、美湖ちゃんのお話をニコニコと聞いていた。おとうさん、おかあさんは赤を振ってくれている。
会場を見渡すと、気のせいか赤色を振ってくれている人が増えた気がする。まだまだ先輩や美湖ちゃんには及ばないけど、見てくれている人がいるんだっていうのは嬉しい!
そうだ、紗那ちゃんと鈴鹿くんもどこかで見てくれているはず。これを機に、さらに仲良しになってくれたら嬉しいな。
トークコーナーが終わると、次は私と美湖ちゃんを含む五人で「ビート・クイーンズ」を歌う番に。出番のない研修生はいったんステージから下がって、控室に戻る。
イントロのベースの音が響き渡る。リズムに合わせてフォーメーション移動して、ステップを踏む。
良かった。五人でステージに立てて。
練習して、ミキ先生に認めてもらって、この場に立っている。
全力で、お客さんに楽しんでもらわなくちゃ!
「彩葉ちゃんの笑顔で元気が出たよ」って言ってもらいたくて、アイドルを目指しているんだから。
研修生用の、ヒールのない靴で踊る。自分の歌割が来たらマイクを口にピッタリつけて歌う。
どちらも完璧じゃないけど、アイドルとして、パフォーマンスを見てくれた人に元気を与える存在でありたい。
曲が終わり、最後のポーズを決めた。
細かいミスはあったけど、でも、今まで練習した中で一番良かった……気がする!
余韻に浸る間もなく、次のユニット曲のイントロが流れる。
頭の上でクラップをしつつ、私たちはステージ袖へとハケていき、控室へと戻った。
控室の椅子に座った途端、なんだか力が抜けてしまった。
「なんか、彩葉ちゃんいつもと違うね」
すぐに出番がある美湖ちゃんは、鏡を見ながら髪を整えたりリップを塗りなおしたり、あわただしそうにしながら私に言った。ふんわりカールさせたハーフアップ、美湖ちゃんが世界一似合うと思う。いや、美湖ちゃんはどんな髪型も世界一似合う。
「やっぱりそう? 私も、なんだかいつもと違うっていうか……身体の中からすっごいエネルギーがわいてくる感じがしたんだ」
「余裕をもってパフォーマンスを楽しめるようになったのかもね」
嬉しそうに美湖ちゃんは笑いかけてくれる。
「うん!」
私は、見に来てくれたお客さんが、私を見て元気を出してくれたり、毎日勉強や仕事を頑張る活力になってほしいと思って、アイドルをしている。
ようやく、自分の理想のアイドルへのスタートが切れたような気がして嬉しい!
「それじゃあ彩葉ちゃん、二人曲がんばろうね」
別のユニット曲に参加する美湖ちゃんは、もうステージに戻る。
「うん、がんばろう!」
グータッチをして、美湖ちゃんを送り出した。
控室で歌や踊りの確認をしつつ、出番を待つ。ほかの研修生も入れ替わり立ち代わり控室を出入りし、同じように練習したりストレッチで疲れをとったりしていた。
みんな忙しそう。暇なのは私だけ……。
やっぱり、もっと頑張って出演できる曲数を増やしたい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます