第15話
すっかり日課となった美湖ちゃんとのジョギングの日。
なんだかんだ、週三回のジョギングは続いていて、体力がついてダンスに余裕が生まれたり、歌が上手になったような気がしたり、効果を感じている。
美湖ちゃんとのジョギングは、基本的に早朝に行う。
夜は危ないことも多いけど、朝は人も少ないし空気もきれいだから。私はあんまり早起きが得意じゃないんだよね……。
なんとか六時に起きて、朝食を食べて、集合場所である川沿いの散歩道に到着。おかあさんに週三回も早起きしてもらってごはんを作ってもらうのは申し訳なかったけど「朝、彩葉を起こすために何十分も費やしていることを考えれば、平気」と言われてしまう。
春の早朝の空気は本当に気持ちよくて、静かで、美湖ちゃんが朝に走ろう、と言ってくれた意味がわかる。春先だから、結構寒いけどね。
「おはよー! 彩葉ちゃん!」
レッスンの時と同様のジャージ姿の美湖ちゃん。朝日を浴びてキラキラして輝いている。
いつもはロングヘアをおろしたままレッスンしているけど、ジョギングの日はポニーテール。美湖ちゃんのポニーテール姿はとっても珍しいから、莉朋が知ったら興奮しちゃうだろうな。
「おはよう! 良い天気だね」
おしゃべりできるくらいのゆっくりペースで、川沿いを走る。
「私、アイドルって、もっと簡単になれるものだと思っていたよ」
研修生に加入できるとなった時は、それだけで満足だったし、言われたレッスンさえしていれば良いと思っていた。
それだけじゃ足りないから、こうして走ることになったんだけど。案外体力勝負なんだよね、アイドルって。
「ちょっとだけ、アスリート気分だよね。上下関係もきっちりあるし、運動部ってこんな感じなのかな」
「福岡では帰宅部だったんだっけ」
「うん、歌とダンスのレッスンに行っていたからね。でも、部活やってみたかったな」
「私は、陸上部がいいかな! 紗那ちゃんが陸上部なんだけど、楽しそうなの」
紗那ちゃんの名前を出して、鈴鹿くんの顔も思い浮かんだ。
あの二人の関係、どうなるのか気になるなぁ。
走りながら、雑談として紗那ちゃんと鈴鹿くんの話をしてみる。
「へぇ。鈴鹿くんって、彩葉ちゃんにちょっかい出していた男の子だよね。紗那ちゃんとそんな仲になっているとは」
「私、鈴鹿くんは紗那ちゃんとお似合いだってずっと思ってるんだ。軽い鈴鹿くんには、紗那ちゃんみたいにちょっと厳しくツッコミ入れてくれる人の方が上手くやれそう」
「それはそうかも。でも、紗那ちゃんはどう思ってるの?」
「それが、わかんないんだよねぇ。気にはなってると思うけど、恋愛対象として見ているかは微妙。そもそも恋バナしたことがないから、恋愛したいのか男の子が好きなのかも何も知らないし」
紗那ちゃんのこと、何にも知らないのかも。ちょっと寂しくなる。
「ねぇ、紗那ちゃんの家ってこの辺?」
唐突に、美湖ちゃんが言う。
「え? そうだね、五分くらい走れば……」
「起きてるかな? ジョギング誘ってみない?」
美湖ちゃんは、わくわくした顔で提案する。ジョギングを口実に、鈴鹿くんの件について聞こうとしているみたい。
「早起きだとは聞いてるけど……」
「よし、連絡してみて」
美湖ちゃんは走るのをやめた。意外と強引なところがあるみたいで、新たな美湖ちゃんの一面に驚きつつも言われた通りメッセージを送ってみた。
すぐに既読がついて、通話呼び出しの画面になる。早起きだなぁ。
『美湖ちゃんがいるの!? すぐ準備するから家の前で待ってて!』
一方的に言って、通話が切れた。すごいテンション。
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