第14話

 翌日の学校では、紗那さなちゃんが長方形の紙をひらひらさせて見せてくれた。


「私もライブ行くからね。チケットも取ったよ」


「嬉しい! ありがとう!」


 紗那ちゃんは、東京でのライブだったら、いつも自分でチケットをとって観に来てくれる。


 デビューしたら、ぜったい私が招待してあげる!


「でも、お母さんと行こうと思ってチケット二枚とったのに、仕事が入って行けなくなっちゃったんだって。どうしようかなぁ」


 紗那ちゃんはいつも、お母さんと一緒にライブを見に来てくれる。


 でも、今回は来れないんだ。残念。


「なになに? 彩葉ちゃんのライブ?」


 目ざとい鈴鹿くんが、私たちの元にやってきた。


「鼻がいいんだから」


 紗那ちゃんはうっとおしそうに顔をしかめて見せた。うーん、まだ鈴鹿くんに気があるかどうか判断しにくいな。


「俺も行きたい! 彩葉ちゃんを応援したい! いいでしょ美作さん!」


 目を輝かせて、二枚あるチケットを見ている。


 さては、チケットが余っているという今の話を聞いていたな。


「え、鈴鹿と一緒に行くの?」


「もちろん、自分の分のチケット代は出すよ。美作みまさかさんと観たら楽しいだろうな~」


 あれ、鈴鹿くんも、ちょっと紗那ちゃんのこと、好印象なんじゃない?


「いいじゃん! ふたりで見に来て欲しいな!」


 私の声に、紗那ちゃんはまんざらでもないような顔を浮かべた。良いリアクション。


 鈴鹿くんはというと、満面の笑み。


 もしかして、私をからかうフリして最初から紗那ちゃん目当てだったんじゃないの?


 紗那ちゃんは窓の外に視線をやりながら、小さい声で言った。


「まぁ、チケット代払うっていうなら……いいけど」


「やった!」


 これはこれは、デートではないですか。


 私はニヤニヤが顔に出ないように抑えつつ、紗那ちゃんと鈴鹿くんのやりとりをほほえましく見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る