第13話

 全員曲の通しリハーサルが進み、いよいよ「ビート・クイーンズ」の番になった。

 緊張するな……。


 深呼吸して、マイクをぎゅっと握る。


 かっこいい曲だけど、歌詞はとっても前向き。だから、緊張でこわばっていたら音楽が伝わらない。


 私は意識的に笑顔を作り、美湖ちゃんや先輩研修生を見た。


 みんな、にこっと笑って頷いてくれる。


 私は一人じゃない!


 勇気をもらえたし、自信がわいてきた。


 「ビート・クイーンズ」のイントロが流れてきて、私たちはリズムに乗りながらステージ上でフォーメーション移動をする。


 大丈夫。練習したこと、みんなで居残り練習したこと、自主練習したこと。全部思い出して!


 難しいダンスをしながら、自分のパートになったら歌って、今はいないけれど当日は目の前にいるお客さんに音楽を伝える。そして、元気になってもらう。


 それが、アイドルなんだと思う。


 あっというまの「ビート・クイーンズ」の三分間が終わり、ステージからおりた。


 ステージ袖にいるときは、他の研修生のパフォーマンスを見る。私より参加曲数の多い美湖ちゃんはステージ上にいることが多い。いいなぁ……。


 ミキ先生や、スタッフの大人たちの顔を見る。厳しい表情だ。


 昔、おとうさんに「大人ってみんな怖い顔してる」と話したところ「そりゃ、彩葉たちが適当な仕事をしていたら、自分たちの仕事がなくなっちゃうからだよ。スタッフさんたちにも生活や家族があるんだから」と言われた。


 そっか、怖い顔の大人たちにも生活があって、私みたいに子どももいる人だっているんだ。


 もし私が適当なパフォーマンスをしたりSNSで炎上したりして、アイプロの人気がなくなったら……そう思うと、ちゃんと頑張らなくちゃって気が引き締まる。


 数曲間が空いて「片思いの欠片」を歌うためにステージへ。


 こっちは、苦手意識はないから上手くできた!


 滞りなく最後の全員曲も終わり、リハーサルは終了した。


 通しリハーサルを終えると、研修生全員が汗だく。私もぺったりおでこに張り付いた前髪を指先で剥がしつつ、ミキ先生の前に集合する。


「お疲れ様でした! 集中してできた良いリハーサルだったと思います」


 ミキ先生が上機嫌なので、研修生一同ほっとした。


 私だけは、全然安心してない。怖い。「ビート・クイーンズ」を降ろされたらどうしよう。


「彩葉さん!」


「はい!」


 私、どうだったかな……。


 心臓がばくばく言ってる。


 願うようにミキ先生を見ると、優しい微笑みを向けてくれた。


「今までで一番良かったです。頑張りましたね。本番が楽しみです」


 ミキ先生の言葉に、私は涙が出そうになった。泣くのは我慢して、大きな声で返事をする。


「ありがとうございます!」


 みんなの前で、名指しで褒められたのは初めてかも!


 良かった、みんなのおかげだ!


 美湖ちゃんや他の研修生の子を見ると、みんな嬉しそうに拍手してくれた。嬉しい!


 その後、それぞれのスタッフさんからの注意点などを聞き、通しリハーサルは無事終わった!


 外されなくて良かったぁ。


「では、三日後の本番、よろしくお願いいたします!」


 ミキ先生の声で、リハーサルは終了。


 三日後の日曜日はいよいよライブ!


 今までになく緊張するよ~。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る