第12話
ライブの日が近づいてきた。
今日は、本番のライブのように衣装を着て、スタジオで全体の通しリハーサルをする日。関わるスタッフさんの数も増えるし、ダンスや歌の先生のほか、音響さん、衣装さん、舞台監督さんなどなど、多くの大人に囲まれて緊張する!
スタジオでのリハーサルだから、ステージ上とステージ袖の境目は緑色のテープが引かれているだけなんだけどね。
衣装は、研修生用に作ってもらったもの。淡い水色でふわっとしたチュールスカートと大きな襟が特徴で、とっても可愛いの!
筋トレしたりジョギングしたりもしてきたから、鏡に映る私はいつもより引き締まった身体をしていて、衣装を可愛く着こなせている……かもしれない。
ステージにあがるからには、自信を持たないとね!
「みなさん、集まってください!」
ミキ先生の大きな声に、研修生たちが集まる。私も美湖ちゃんと並んで直立不動になる。
「今日の通しリハーサルは、集中力を持って取り組んでください! 今日の出来が悪かった人は、本番のステージから外すこともありますので、全力で練習の成果を見せてください!」
「はい!」
外される可能性が一番高いのは私。練習してきたことを信じて、がんばろう。
「では始めます!」
リハーサルの出来が悪ければ、本番のステージには立てない。毎回のライブで言われていることだ。研修生はみんな、一度や二度は外された経験がある。
外されると、本当に研修生やめよう。って思うんだけど、でも私を応援してくれる人もいるし、何よりステージで歌って踊って応援してくれる人が笑顔になってくれるのがサイコーだから、やめたくないし絶対デビューしたい! って気持ちが高まるんだ。
習い事気分はもう終わり!
改めて、緊張感が高まる。
美湖ちゃんは、いつにも増して顔の色が白い。もともと色白でキレイな肌なんだけど、なんていうか、消えちゃいそうなくらい白い。
「美湖ちゃん」
小さな声で話しかけると、美湖ちゃんはびくっとしたように肩を震わせた。
「彩葉ちゃ……。な、何?」
私は冷たい美湖ちゃんの手を取って、両手で握った。
「美湖ちゃんなら大丈夫! ジョギングもしてきたし、可愛くて、歌もうまくて、ダンスなんてプロみたいなんだから。あとはスマイルで行こう!」
私は、自分にできるせいいっぱいの笑顔を見せた。わざとらしかったかな、と思ったけど、美湖ちゃんの唇にピンク色が戻ったのがわかった。
「ありがとう、彩葉ちゃん。やっぱりあなたの笑顔って地球を救うかもね」
「えー、大げさー」
表情が柔らかくなった美湖ちゃんを見て、私の緊張も少しはとけた。
「彩葉ちゃんも、頑張ろうね」
「私は美湖ちゃんよりも参加する曲数少ないからヘーキヘーキ」
いつものように、自虐気味に言ってみた。
でも、なんだか心がチクっとする。
私が出演する曲は六曲。先輩の中には十曲以上歌う人もいる。美湖ちゃんも十曲に参加しているから、六曲はとっても少ない。
……悔しいな。
今まで、六曲も歌えたら嬉しいどころか、覚えるのが大変っていう思いが強かった。同期である美湖ちゃんと二人で歌うのも、自分の出来なさ加減を思い知らされるみたいで逃げ出したくなる。
でも、研修生を半年もやっているのに、ちょっと情けない。
「次のライブは、美湖ちゃんと同じ曲数参加できるようにがんばる」
私の強気な言葉に、美湖ちゃんは驚いたように目を丸くした。
「そうそう、その気持ちだよ彩葉ちゃん!」
嬉しそうに美湖ちゃんがうなずいてくれた。
やる気がなかったわけじゃない。けど、真剣さが足りてなかったかも。
あいらちゃんのライブのバックダンサーに選ばれたい。
美湖ちゃんが先にデビューしたら、もう二人で歌えないかも。
そう思ったら、ひとつひとつのステージを大事にしたいし、デビューしたい気持ちが大きくなった。
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