第8話

 お買い物を終え、夕飯の食材を買って美湖みことちゃんちへ。二人で、夕飯を作って食べるんだ。美湖ちゃんのお兄さんは、私たちを送り届けてくれたあと、恋人の家に泊まるといって出かけて行った。


 渡しそびれちゃった手土産は、美湖ちゃんに渡す。


 二人で気兼ねなく話せるよう、気を遣ってくれたのかな。


 今回は……というか、毎回なんだかんだでカレーを作ってしまう。失敗しにくい料理といえば、やっぱカレーだよね!


 美湖ちゃんの家は、広くてきれいなマンション。インテリアも可愛くて、ちょっと嫉妬してしまう。ちょっとだけね。


 一緒にカレーを作って、食べる。


 ちゃんと野菜を切って、お肉と煮込んで、カレールーを入れれば美味しいカレーが食べられる。ものすごい発明だと思う!


 私はまだ辛いカレーが苦手だから、美湖ちゃんが甘口のルーを選んでくれた。優しい。


 美味しくカレーを食べながら、ふと、鈴鹿くんと紗那ちゃんの顔が思い浮かぶ。


 そして、美湖ちゃんが研修生になる前のことが気になった。


「美湖ちゃんて、東京に来る前は恋愛とかしてた?」


「え。びっくりした。彩葉いろはちゃん、好きな人いるの?」


 想像以上にびっくりした顔をしてきて、私もびっくり。


 私に好きな人がいるわけでなく、クラスにちょっかいを出してくる鈴鹿すずかくんという男の子がいること、その男の子のことを、友達の紗那さなちゃんがちょっと気になっているかも? という話をした。


「なるほどね。彩葉ちゃんの恋の話かと思ってヒヤヒヤしちゃった」


 ヒヤヒヤという言葉に、自分たちの立場を思う。今は恋愛する気はないけど、いつかもし、そんな気持ちになったらファンの人が悲しむのかな。


 実際、恋愛がバレたことをきっかけにグループをやめるメンバーもいる。


 どうして、ファンの人が悲しむとわかって恋愛するのかな。


 もちろん恋愛が悪いことじゃないことはわかってるんだけど、私自身、例えばあいらちゃんや美湖ちゃんの恋愛が発覚したら……がっかりしちゃうかも。


 モヤモヤの理由はわからないけど、アイドルより優先すべきことがある、っていうのが、嫌なのかな。


「美湖ちゃんが、福岡にいた時ってどんな子だったのかなぁってちょっと気になって。あ、言いたくなければ全然!」


 慌てて言う私に、美湖ちゃんは明るく笑った。


「言いたくないことは特にないよ。アイドルになりたかったから恋愛もしてないし、ずーっとダンスや歌のレッスンに通ってるだけの、普通の女の子だったよ」


「恋愛、してみたいって思わなかった?」


 私の問いかけに、美湖ちゃんはカレーをもぐもぐしながら、ちょっと考えた。


「うーん、ないかな。ちょっとカッコいいな、優しくて素敵だなって思う男の子はいたけどね。でもなんだろう、男子と話してても別に面白くなくて。すぐ嫌なこと言ってくるでしょ。だったら女の子と話してる方が楽しいっちゃんね」


 福岡の話を出したからか、珍しく方言が出た。美湖ちゃんは方言が出たことに気づいていないみたいだけど、「美湖ちゃんの方言好き」としてはレアシーンに遭遇できて嬉しい。


 食べ終わったカレーのお皿はシンクの中で水につけておき、今度はコップの準備。


 ここからが、お泊りの本題。リビングにある大きなテレビで、前回の研修生ライブの映像を流して反省会をするの。

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