第5話
私が通う中学は、家の近くのフツーの公立中。研修生って、レッスンや三か月に一回のライブくらいしかしないから、売れっ子のアイドルみたいに「学校に行く暇ない!」ってことはないからね。
「
教室の自分の席に座っていると、仲良しの
「おはよ!」
「ん? 元気ない? またこわーいミキ先生に怒られた?」
紗那ちゃんは、人差し指を頭の上に立てて、鬼のポーズをした。
研修生活動のことをいろいろ話しているから、紗那ちゃんもすっかり詳しくなっている。
「それもあるんだけど……今度ね、とあるオーディションがあるの。でも受かる気しなくって。無理かもー」
芸能活動について外部の人にもらしてはいけない、と大人に厳しく言われているから、私は具体的なことは言わず、紗那ちゃん以外に聞かれないよう声を落とした。紗那ちゃんもわかってくれているから、詳しくは聞かずに顔を近づけて聞いてくれる。
「頑張ってレッスンしてるんだから、自信持ちなよ。あと、そういうくらーい顔じゃなくて、ニッコニコの笑顔で! 彩葉のいいところは、周りの人が元気になれる笑顔なんだからさ」
「紗那ちゃん……」
なんて優しいんだろう。確かに、私の持ち味と言ったら笑顔だもんね。笑顔くらいしか取り柄がない、とも言うけど……。
ちょっと、アイドル向いてないかも、って落ち込んでたけど、少し元気でた!
「ありがとう、頑張る!」
ぎゅっと紗那ちゃんの手を握る。すると、私たちの手に重ねるように誰かの手が重ねられた。
驚いて見上げると、クラスメイトの
「あ、おはよう……」
「おはよう、彩葉ちゃん」
「ねぇ、私もいるんだけど!」
紗那ちゃんが鈴鹿くんの手を払いつつ、強めの口調で言う。
「彩葉にちょっかいかけるのやめてって言ってるじゃん。これからアイドルになる子なんだから、鈴鹿みたいなのが近寄ったせいで変な噂が出たらどうするつもり?」
なんでか知らないけど、鈴鹿くんは私にいつもちょっかいをかけてくる。たぶん、アイドルの研修生ってことで、面白がってからかってるんだろうけど。
「
鈴鹿くんは、おどけたように両手で自分の二の腕をさすった。
私がアイドル活動を始めたからというもの、紗那ちゃんはいつも、私のボディーガードをしてくれている。
「でもさ、アイドルって恋愛できないじゃん。そんなのつまんなくない?」
アイドルは恋愛禁止。
はっきりと言われているわけじゃないけど、アイプロでも暗黙の了解ってやつで恋愛はしちゃいけないことになっている。
「つまんなくないよ!」
私の口から自然と、反論の言葉が出た。
紗那ちゃんも鈴鹿くんも、ちょっと驚いたように私を見る。
「みんながみんな、恋愛に興味があるわけじゃないし。私は誰かと恋愛するより、アイドルになって大勢の人の生きがいになりたい」
さっきまで、アイドルに向いてないなんて思ってたけど、強い言葉が自分の口から出てきてびっくりした。
そうだ、私は多くの人に元気を与えられるアイドルになりたいんだ。
「……だってさ。残念でした」
イジワルそうに紗那ちゃんが言うと、鈴鹿くんは少し寂しそうな顔をした。
「ま、無理強いはしないけどね~」
鈴鹿くんは寂しそうな顔をすぐに笑顔でかき消して、自分の席に戻っていった。
「鈴鹿、なんか一瞬寂しそうな顔してたね」
紗那ちゃんの言葉にうなずく。
「してた」
「案外、可愛いところがあるのかも」
おや、と私は紗那ちゃんの顔をまじまじ見る。
「ん? 何?」
「なんでもない」
自分の恋愛に興味はないけど、人の恋愛は好き。「もしかして、鈴鹿くんのギャップにちょっとときめいちゃった?」とは聞かず、私はにやにや顔を抑え込むために、授業の用意をするフリでごまかした。
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