第4話

 レッスン帰りは、私のおとうさんが車で迎えに来てくれた。


「おう、今日も楽しくレッスンできたか?」


 おとうさんは、ほかの研修生のパパみたいに、若くないしかっこよくもない。みんなのパパは、一目見て「アイドルのパパ」って感じがする。


 けど私は、優しくておおらかで、私や莉朋やおかあさんを大切にしてくれるおとうさんが大好き。仕事で疲れてるのに、いつもレッスン終わりに迎えに来てくれる。


 最初は、アイドルになることを反対してたんだけどね。


「楽しい……けど、大変なことの方が多くてパニックだよ」


 上手くできなくて、参加できない曲があるかも、とは言えなかった。


「先輩は良くしてくれるか?」


「うん。もっと怖い世界かなって思ったけど、学校の先輩より優しいよ。今日も私のために居残りレッスンしてくれたんだ」


 アイドルになりたい女の子たちが集まるってことは、もっとギスギスした世界なのかな

って思ってた。


 けど実際は、研修生の先輩もデビューしている先輩も、みんな優しい。もちろん怒られることもたくさんある。でもそれ以上に、みんなで高めあっていこうって雰囲気の方が強いんだ。


「それを聞いて一安心だよ。ま、ライバルと言いつつ、いつか同じグループになって活動するかもしれない子たちが、足を引っ張りあっても上手くいかなくなるだけだもんな」


「うん。足を引っ張るような子がグループにいるとパフォーマンスに影響が出るから、そういう子はデビューさせません、ってミキ先生もよく言ってる」


 実際、裏で他の研修生の悪口を言ったり輪を乱したりしていた子がいたけど、問題発覚後にすぐに辞めさせられていた。パフォーマンス同様、人間性もかなりチェックされているみたい。


「次はどんな曲やるんだ?」


「失恋した女の子が主人公の、バラードとか。でも、失恋どころか恋愛もしたことないから、どういう表情で歌ったらいいかわからなくて」


 私のぼやきに、おとうさんはなぜか嬉しそうに「それを聞いて一安心だよ!」といった。私に彼氏ができるのが嫌みたい。


「アイドルは恋愛禁止だもんなぁ、できないよなぁ彼氏なんて」


 浮かれたおとうさんの声を聞きつつ、私は目を閉じた。はー疲れた! 少しでも眠りたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る