第2話
「……と、いうわけで、また
学校が終わり、放課後の研修生レッスンのため電車で東京都の
「相変わらず楽しい子だねー、莉朋くんは。いつか会ってみたいな」
美湖ちゃんはニコニコと、ほんわかした雰囲気で答えてくれた。
中学一年生の私に対し、同期とはいえ高校二年生の美湖ちゃんはとっても大人に見える。それに優しいし、アイドルの研修生になるまでは歌やダンスを習っていて、すでにプロみたい。
いつも振付を教えてくれるし、勉強もできるから宿題を手伝ってもらうことも……。
「莉朋が言うには、アイドルとファンは適切な距離を保たなくてはならなくて、たとえ姉の同期で友達であったとしても
私的交流、初めて聞いたんだけど、プライベートで会わないということらしい。小五の語彙力か?
「莉朋くんは、アイドルファンの
「変なとこで真面目なの」
「余計に会いたくなっちゃうな」
優しく微笑む美湖ちゃんは、本当に可愛い。長くてきれいに巻かれた髪は大人っぽくて、羨ましさもある。
お姉ちゃんがいない私にとって、美湖ちゃんは本当のお姉ちゃんみたい。
私だって、莉朋に負けないくらい美湖ちゃん推しなんだからね!
美湖ちゃんとおしゃべりしていると、歌とダンスを教えてくれるミキ先生がやってきた。
「おはようございます! 集合!」
「はい!」
年齢はお母さんとおばあちゃんの間くらいっぽいけど、研修生の誰よりも元気だし、怒ると怖い。今日は怒られないといいけど……。
「研修生のライブが近づいてきましたね。早速レッスンを始めたいのですが、その前に発表があります!」
発表、という声に総勢十人の研修生がざわつく。
ざわつきが収まるのを待つように一呼吸おいて、ミキ先生が口を開いた。
「
「あいらちゃんの!」
思わず声をあげてしまい、ミキ先生に注意の視線を向けられてしまい、私は慌てて口を閉ざした。
富士あいらちゃんは、二年前に「
あいらちゃんは、私も好きな先輩メンバーなんだ。可愛い歌声とは裏腹にキレッキレのダンスが魅力で、モデル活動もしている。女子人気も高くて、スタイルブックも出版しているの。
会ったことはないんだけど、どういう人なんだろう。会ってみたいな。
「研修生のみなさんにとって、絶好の機会です。選ばれるのは四名! その四名は、研修生ライブでどれだけ活躍したか、レッスン中に自分の課題に積極的に取り組んだかなどの評価で選ぼうと思います」
研修生ライブが、オーディションにもなる。一気に緊張感が高まる。
必ずしも、歌やダンスが上手な人が選ばれるわけではない。
真面目にレッスンしているか、自分の課題を見つめて解決できるか、できない人を置いてけぼりにして自分だけ上手になろうとしていないか……そういった態度も見られて選ばれるみたい。
私は一番の後輩だから、置いて行かれることはあれど誰かを置いていくことはないんだけど。
ちらり、と横に座る美湖ちゃんを見る。引き締まった顔は、こわばっているように見えた。
美湖ちゃんは、口癖のように言う。「私には時間がないの」って。
研修生の多くは、私と同じ中学生。早い人だと、小学生からレッスンを始めている。そういう子たちは、長い時間をかけてレッスンして、デビューする。
でも、美湖ちゃんみたいに高校生で研修生になった人は違う。即戦力だと期待されているから、研修生になってからデビューするまでがとっても早い。
反対に、高校三年生になってもデビューできないと、みんな研修生をやめてしまう……と、先輩研修生に聞いた。大学受験とか、進路を考えなきゃいけないからって。
一か月後には高校三年生になる美湖ちゃんは、ひとつのライブ、ひとつのオーディションが大切なんだ。
「あいらちゃんに会ってみたい」なんてのんきなことを言っている私とは、次元が違う。
「がんばろうね」
小さな声で話しかけると、美湖ちゃんはいつものほんわかした笑顔になって、うなずいてくれた。
私たちはライバルだけど、同時にかけがえのない仲間。
「ぜったい、一緒にデビューしようね!」
美湖ちゃんとグータッチ。私たちの気合入れとして、いつしかおなじみのやりとりとなっている。
「うん、約束だよ」
一緒にデビューする、それが私たちの合言葉なんだ!
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