ただいまアイドル研修中!

花梨

第1話

 ステージに立つ私を、多くのファンが見つめてる。みんなが手にしているのは、私のメンバーカラーの赤色の光を放つサイリウム。


彩葉いろはちゃーん!」「かわいいー!」


 聞こえてくる声援に、最高の笑顔を返す。


「みんなー! 今日はありがとう!」


 多くの人を幸せにできる、アイドルっていうお仕事。サイコーな活動ができて、私は幸せだ!



 ……というところで、いつも目が覚める。見慣れた自分の部屋のカーテン、その隙間から差し込む朝日が眩しい。


「もう、何度も見た夢なんですけど」


 鏡を見なくてもわかる、寝起きで爆発したボブの髪をかきまぜた。昨日、遅くまでダンスの練習してたから、すっごく眠い!



「おはよう、彩葉ちゃん」


 リビングに降りると、すでに小学校への登校準備を終えた弟の莉朋りともがいた。莉朋はあんまり身体が丈夫じゃないから、学校を休みがち。だから、今日みたいに登校の準備をしている姿を見るとほっとするんだ。


「おはよ。相変わらず準備が早いね」


 朝ごはんも食べ終えているようで、リビングのソファに座って国語の教科書を読んでいた。本当に私の弟? っていうくらい真面目で勉強が好きな子。私は国語も数学も何もかも苦手なのになぁ。


「体調が良いと嬉しいからね。彩葉ちゃん、昨日も遅くまでダンスの練習してたでしょ。無理しすぎないでね」


「あ、ごめんね、うるさかったよね」


 振付の確認だけだったけど、古い一軒家だからそれすらもちょっと響くかも。


「大丈夫、トイレに起きただけですぐ寝たから」


 優しい弟! 小学五年生にしては大人びた風貌で、外遊びをしないからか白くてきれいな肌で、将来は韓国アイドルになれそうな雰囲気。自慢の弟だ。


「研修生のライブが近いんだし、僕のことは気にしないで」


 研修生のライブとは、私が所属しているアイドルグループ「アイドル♡プロジェクト(略してアイプロ)」の研修生が行うライブ。

 アイプロにはメジャーデビューしているグループが六つあって、研修生はそのいずれかの新加入メンバーとなるか、新しくできるグループのスターティングメンバーになるかのどちらかで、メジャーデビューが叶う仕組みなの。


 莉朋は、私のアイドル研修生活動を応援してくれているんだ。


「ありがとう! 莉朋大好き愛してる!」


 可愛い弟すぎて、思わずぎゅっと抱きしめる。しかし莉朋は冷たい対応で「……学校に遅刻するから、早く準備しなよ」とぼそりとつぶやいて、私を優しく押し返した。


「心配性だな、彩葉ちゃんは」


 心配性をウザられるのは、悪くない。だって、元気だからうっとおしいって思うんだし。体調が悪いと、姉をウザがる元気もない時があるから……。

 とはいえ中一と小五だと、触れ合いなんてキモいだけか。私が弟離れしなくちゃいけないのかな。

 莉朋も昔は、わんこみたいに懐いてくれてたのにな。お姉ちゃんは寂しいぞ。

 のんびりしていると中学校に遅刻しそうなのは事実なので、私は慌てて洗面所に向かった。


 冷たい水で私が顔を洗っていると、背後から莉朋の声が聞こえてきた。


「三月の研修生のライブ、僕も見に行くからね」


「ん、ありがと」


 口に洗顔フォームが入らないよう、もごもごと返事をする。


美湖みことちゃんも出るよね? あ、新しいグッズは出る? 研修生って全然グッズ出さないから。事務所の偉い人に言っておいてほしいな。あー美湖ちゃん、早くデビューしてくれないかなぁ。もうそろそろ、研修生になって半年になるもんね」


 信じられない早口で、莉朋は私の同期の研修生・茂木美湖ちゃんのことを話し始めた。こっちは洗顔中なんですけど。


 そうです、莉朋はアイドルオタクで、美湖ちゃん推しなのです。

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