カウントダウン『4』

「あ~~~、今日もダメだったぁ!!!」


私は、君が待つマンションの部屋に着くと、玄関で出迎えてくれた君にそう漏らした。


本当は、放課後も君にギャラリーをして欲しかったけど、中間テストが近いし、香葡さんのように、推薦……と言うのも、君には難しそうだから、朝練だけに専念させる事にした。


「そ……そんなに、無理しなくても良いんだよ? 燈。もしも、朝比奈さんの欲しいものが分かっても、渡す勇気……」


と、君が続けかけたその時、私は、キツク、君を罵った。


「こら! 君! 今度そんな腑抜けたこと言ったら、この家から追い出すって言ったでしょ!? 見放すよ!? もう、絶交だよ!?」


「う……ご、ごめん……」


「君は、後4日、度胸を付ける事だけに専念しなさい!! 絶対、バースデープレゼント渡すんだからね!! 勇気、出しなさい!!」


「……で、出る……かな……?」


「出るかな? じゃないの!! 絶対出すの!! 君! 覚悟、良い加減、決めなさい!!」


私の幾度目になるのか、もう分からない喝に、君は恐れおののいて、言った。


「はい!!」


にやり……。


私は、くちびるの片方の口角を上げ、ニンマリした。その表情を見て、君も、何か良くない事が起こると、勘づいたんだろうね。


「……な、なに?」


『君! 覚悟、良い加減決めなさい!! 【はい!!】』


「!? な、何それ!?」


私のスマホから、先ほどの私と君の覚悟の宣誓が聴こえて来たのだ。私は、君の覚悟が揺るがぬよう、君の声を録音していた。


「もしも、今度、弱音を吐くような事を言ったりしたりしたら、この録音、香葡さんに聞かせます!『香葡さんに、想いを伝える覚悟を決めた瞬間の時の声ですぅ!!』って言って」


「えぇぇええええ!!」


「いい? この先、せめて、香葡さんにプレゼントを渡すまで、弱音は一切許しません!!」


「……」


君は、汗だくになって、どうしよう……見たいな顔で、冷や汗を搔いている。


「出来るの!? 出来ないの!?」


私は、そんなに甘くないんだから!! ビシバシ行くよ!!


「わ……分かったよ……。が……がん……頑張ります……」


「うん! よく言った!」


私は、君を、褒めると、毎日の部活で、負担をかけたこの体に、申し訳なく思い、ベッドで晩御飯は要らないと、君が用意していてくれたのを、これまた申し訳ないけど、断わって、ベッドへ滑り込んだ。そのシーツは、君が、今日、私が帰ってくる前に、君が変えておいてくれたらしく、柔軟剤のいい匂いと、触り心地で、スーッと、私は、眠りに吸い込まれた……。






―香葡さんの誕生日まで後4日―


「おはようございます! 香葡先輩!」


「はよー! もう、本当に燈人間? もう、部活に勉強に、私、へとへとぉ~」


「香葡先輩らしくないですねぇ! それでも、こうして朝練に来てるくせにぃ」


私は、ちょっと冗談めかして、香葡さんをからかった。


「燈は、性格まで良いんだから、本当にいい子だよね。私が、男だったら、燈に惚れてるよー。あんな凄いリベロ、プロにだって、中々いないかもよ?」


「そ、そんなに……如月って、凄い選手……なの? 朝比奈さん……」


「!」


私は、正直、驚いた。君から、香葡さんに話しかけるなんて、初めての事だたから。


「えー! 橘君、見てて分からない!? 燈は、多分将来、日本代表になるね。そのレベルのリベロだよ!!」


「え!?に、日本……代表……?」


「この人には、あるところを見なきゃいけない使命があるんです。ね? 君」


「うわ! え! な! なんのことだか!!」


「なにぃ~? なんか気になる!! 橘君、教えてよ!!」


なーんにも知らない香葡先輩が、笑って、君の名前を呼ぶ。君は、その度、嬉しそうで、……そして、少し、切なそうだ――……。


「い、いや、本当に、何でもないよ。如月が意地悪言ってるだけで……」


「ま、そう言う事にしときましょう!」


「えー! やっぱ、燈なんか隠してるぅ!」


「気にしないで下さい! 後、4日で分かります!!」


「もう! もの凄い気になるんだけど!! 4日ってなによぉ!! ふふふ」


香葡さんは、少し頬を紅潮させて、笑った。だから、思ってしまったんだ……。





これ……脈あり……かな……?




なんてね……。





「ねぇ、前から思ってたんだけど、燈と橘君、家近いの? 毎朝、私と合流するまで一緒に登校してくるけど……」


「はい。実は、マンションが一緒なんで、お兄ちゃんみたいなものかな? ……まぁ……私がお姉ちゃんになっちゃってますけど!」


「あはは! それは、何となく分かるかも知れない!! あ……ごめん。橘君!」


香葡さんは、少し、『まずった!』みたいな顔をして、君に謝罪をした。でも、それが、かえって、君には、嬉しかったみたい。自分に直接、話しかけてもらえるのは、どんな内容でも、どんな言葉でも、恋をすれば、みんな、嬉しいものだよね。


「気にしないで。朝比奈さん。僕も、本当に、妹ってより、母親に近い感じだから……」


「母親? 何それ。ふふふ……。燈、どれだけババ臭い事、橘君に言ってるのぉ?」


「ちょっと! 君! こんな、可愛くて、文武両道の私に向かって、母親って何よ!」


私は、少し、本気で怒りたかった。……でも、母親を、失った君に、私が、母親だと言ってもらえて…、正直、嬉しくも……あったんだ――……。






―放課後―


「あー……、勉強、うざいなぁ……」


「香葡先輩!」


私は、後ろから、そんな独り言を漏らす香葡さんの肩をポンと叩いた。


「うわ! なんだ! 燈か! びっくりしちゃった!」


「もう、バレーでは、あんなに集中してプレーできるのに、授業は集中出来ないんですか?」


「あはは! それな! 私にとって、授業は睡眠時間だから!」


「それじゃあ、明日から、放課後、勉強会、しません? 試験準備期間に入ってますし」


私たちの高校には、試験の30日前から、試験準備期間と言うモノが設けられる。その間、極力部活などの勉強以外の行動は、控えなければならないのだ。


「え! 良いね、それ! でも……私の周り、頭いい人居ないんだよねぇ……。もうみんな、部活馬鹿ばっか!」


「先輩~!怒られますよ? そのお友達に」


「だねぇ! はは!」


「でも、私、実は、2年の問題も、少し解るんです! 特に、数学とか、英語とか。だから、香葡先輩と、杏弥と、あの人と、私で、勉強会、しましょうよ! 図書館で!」


「えー! 燈って、マジ天才なの!?」


「天才でぇす!! えへへ」


私は、とぼけて笑って見せた。




でも、これは、に、行きついている証拠だ。何とも、後味が悪いと言うか、苦虫を嚙み潰したようと言うか、私自身を、ハチャメチャにしたくなると言うか…。もう、私は、この人生が……少し、いや、かなり、嫌になっていた。本当は、今にも、逃げ出して、、逃げ出して、になれれば…。…………なーんてね!


それはそれ。これはこれ。


私は、君を、君の恋を、叶えなければ!!



私は、勉強会の話を、速攻で香葡さんにO.Kさせ、意気揚々と家に帰った。


「あ、燈。お帰り」


「ただいま! 君! 良いニュースがあるよ!!」


「え?」


君は、きょとんとした。







「べべべべ勉強会!!?? 朝比奈さんと、杏弥と、燈と、僕の4人で!?」


「そう! “朝比奈香葡さん独り占め”だよ!! うっれしー!! たっのしー!ラッキー! ハッピー!! ……でしょ!?」


「はわはわはわはわ…………」


「…………」


やっぱり、君はなったか……。多分、ストレートには喜べず、恥ずかしがって、素直ーに嫌がるんだろうな、って思ってたよ……。


「嫌だ、とは言わせないよ? もう言ったら、絶交の約束したの、憶えてるよね?」


「う……」


「お・ぼ・え・て・る・で・しょ?」


君は、泣きそうになりながら、言ったね。


「……はい……」


「頑張ります! は!?」


「が……がん……頑張ります……」


「もっと! 気合を入れて!!」


「頑張ります!!」


「よろしい!!」


こうして、プレゼントの候補が上がらないまま、それでも、君と香葡さんを繋ぐ糸を何とか切らずに済んだ。

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