君の好きな人(タイムリミット)

「な、なんか、あった? もしかして、今んなって、痴漢のショック、出て来たとか? 大丈夫? でも、もう怖くないから! もう、痴漢、いないから!」


君は、泣いてる私の涙を、必死で止めようと、奮闘してくれた。


痴漢なんて、正直、他の女性の方々には申し訳ないけど、私にはショックでも何でもなかった。でも、君が、ようやく、私に優しくしてくれたもんだから、私は、精一杯、それをいただこうと思った。


色んな意味で。君を、好きになってしまったから、もう、君を、好きになってしまったから、君が好意を向ける誰かさんへの、邪魔だけはしないように、それでも、友達として、君と付き合ってやる! って思ったんだ。


……ごめんね。こんな形でしか、君に話しかけられなくて……。


……ごめんね。こんなやり方でしか、君を連れ出せなくて……。


……ごめんね。こんな私が、君の友達に立候補して……。





「あーあ! 落ち着いた! ごめんね! つい、想い出しちゃってさ。でも、そんなに怖くなかったんだよ?君がすぐ、助けてくれたから。もうぜんっぜん! なのに、泣いたりして、ごめんなさい」


10分くらいだったかな? 私は、色んな思いが込み上げて、泣き止むことが出来なかった。君が、困ってる。分かってた。君が焦ってる。分かってた。君が悩んでる。分かってた。それでも、どうしても、自分でもわからない。ごめんねが、積もった。それを取っ払うのに、10分もかかっちゃった。……ごめんね。


「謝らなくて良いよ。女の子なら、当たり前だよ。痴漢されて、平気な子なんていない。でも、如月、スカート……短すぎだよ?」


「うわー! エッチ!! そんなところ見てたのぉ!?」


「ちょ! 声が大きい!! そ、それに、そんなんじゃ、痴漢してくれって言ってるようなものだよ…。もっと、長くした方が良い。女の子が、勿体ない」


『女の子が勿体ない』……よく分からない理由だった。どういう意味か、知りたかったから、本当に、素直に、私は、君に聞いた。


「『女の子が勿体ない』って……、どういう意味?」


「………」


その沈黙で、全てが分かった。


「そうか。君の好きな子も、スカート、短いんだね?」


「!!」


君は、私にあっという間に見抜かれて、あっけにとられたと言うか、私の事をエスパーだとでも思ったのか、目を見開いて、顔を真っ赤にした。


「そうか、そうか。その子の足が、他の男子に見られるのが嫌なんだ? 気に喰わないんだ? 嫉妬しちゃってるんだね?」


さっきまで泣いていた私が、今度は、スーパー意地悪になって、帰ってきた。


「ち、違うよ。い、一般論として、今の女子は……スカートが短すぎるって話! それ以外ない!」


「えー! それは、ちょっと苦しい言い訳なんじゃない? そんな顔真っ赤にしといて、『女の子が勿体ない』なんて、言葉まで残してさ」


「う、うるさいな……。どっちでもいいだろ」


君は、ベンチから、立ち上がろうとした。その腕を引っ張って、私は、すとんと、また、君をベンチに座らせた。


「いてっ!」


尾骶骨でも打ったんだろう。君は、少し、お尻を気にした。


「協力するよ。君の恋の。私が、協力すれば、叶う事間違いなし!」


私は、君の耳元で、囁いた。


「い! 良いよ! 僕は……望んでないんだ……。そんな事。叶うとか、つ……付き合うとか、そんなの、望んでないんだ。只、幸せでいて欲しいな……って……」


じじいか、君は。と、私は思った。そんなこと言う高2が何処にいる?そう思ったから、私は、素直に、こう言った。


「じじいか? 君は。そんなこと言うのは、60年先の事だよ。今は、自分の恋を、青春を、どう謳歌するか、それを大事にしなきゃ。叶えましょう。君の恋を。絶対、邪魔しないし、むしろ、本気で応援する! 勿論、友達として!」


「いや……でも……」


君は、只々、しどろもどろ。君の得意技だ。




でも、気付いてた? 私が……私も、君と同じ、ばばあだった事に。好きな、大好きな君の、その恋を応援するって決めた私も、やっぱり60年先を行ってたんだって事。



まぁ、60年なんて、可愛いものだけど。



「君の好きな子、そろそろ教えてよ。誰なの? おんなじ学年? それとも後輩? もしや先輩?」


「あ……や……」


「もう逃げられないよ? 地味で、目立たない君に、好きな人がいるって、噂流したら、一体どんな騒動が学校で巻き起こるだろうね?」


「え?」


君の顔が一気に青ざめた。……今思えば、脅し過ぎた。ごめんね。でも、とにかく、私には、そんなに悠長なこと言ってられない事情があったから、君を脅してでも、君の恋を叶えなきゃいけなかったんだよ。


「ほら、早く言っちゃいな」


「う……」


「言わないなら、明日から、ずーっと学校、サボらせるよ? 君は単位が取れなくて、留年。もしくは退学。そして、学校をさぼってる間に、君の愛しの彼女は、他に恋人を作り、大学へと進み、もう一生、会えないかも知れない。……どうする? 君には、私に恋を応援させるか、もう二度と彼女に会えないか、どっちかだよ。どうするの?」


「そんな、無茶苦茶だよ……。僕の人権は一体どこに……」


「君の人権は、私が預かった! さぁ! どうするの?」


「……う……も……もう! 分かったよ! 言うよ! 言えば良いんだろう!?」


君は、やけくそになった。




思わず笑っちゃった事。この先ずーっと君に怒られ続けた事、私、宝物のように、胸に抱いてたんだよ。





―次の日―


私は、また、君をエレベーターの前で待ち伏せして、逃げないようにひっ捕らえた。あ、痴漢みたいないい方しちゃった。ごめんなさい。君は、あの時、滅茶苦茶勇敢だったのに。


そして、学校につくと、私は、すぐさま、君に、君の好きな人の所へ案内させた。そこは、体育館だった。


「へー……、朝比奈香葡あさひなかほさん。2年6組のバレー部のエース……ですか……」


身長は、君といい勝負。君も、地味だったけど、身長はあったからね。でも、とーっても美人だった。髪の毛をポニーテールにして、スパイクを打つ香葡さんは、本当にはつらつとして、舞い散る汗は、漫画みたいにキラキラ光ってた。友達と笑い合って、フローターサーブが上手くって、スパイクが決まる度、仲間とハイタッチを交わす香葡さんを、いつの間にやら、私より、君が見て……ううん。……見惚れてた……。




「中々に強敵を選びましたね。君は」


「……だから……言いたくなかったんだ……」


君は、むくれた。


「良いじゃん! 誰が誰を好きになろうと、それは自由だよ? 君が香葡さんを想う気持ちが本当なら、何も、どこにも、恥じたり、自分が劣ってるなんて思う必要は無いんだから。むしろ、私は、君が好きになったのが、香葡さんで、良かったと思ってる」


「え?」


「だって、とーっても素敵な人だったもん。あの人は、きっと、君を馬鹿にするような人じゃないと思うよ」


「……そ、それは……僕だって分かってるよ…」


「ん? 何か、香葡さんとあったの?」


「え!? や! いや!? な! 何も!?」


君は、嘘をつくのが本当に下手だ。


「見るだけ見たんだから、もういいだろ? 早く教室戻ろうよ」


君は、私に突っ込まれるのを予見して、焦って私を体育館から遠ざけようとしたね。でも、そんな事、させないよ。


私、君の恋を、タイムリミットまでに、絶対、叶えて見せるんだから!

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