第17話 転生者バトルロワイヤルその2

─────────8時間前・蠍氷かつひょう協会


天窓を背にどこか儀式的な白衣を身に纏う老人が椅子に腰かけ、よく手入れされた白い髭を撫でつけている。


何を隠そうその老人こそ銀蠍テシェナ・ウルト教会教皇イエロ・エルフォートレスその人である。


「そろそろか」


教皇がそう呟くと同時何者かが扉を叩く音が聞こえてくる。


「よい、入れ」


「失礼します」


来訪者はクンニス王であった。


「全く大変ですよここまで来るのは...民草の認識では貴方と私は政治的に敵対していますからね」


「然り、君と私はあくまで同じ絵を思い浮かべる同士であっても根本的な政治的思想は、皆の認識どおり...到底相容れぬ。相反するものだ」


そう、クンニス王の息子である勇者エヴァンドは弱冠5歳にして不可能とされた魔王討伐を成し遂げた。


これを皮切りに民衆の成果主義の機運が高まり、国の基盤であった銀蠍テシェナウルト教の弱者救済思想は衰退の一途を辿っている。


現在王国はクンニス王率いる騎士団派と教皇率いる教会派で二つに割れている。


「そう突き放さないでくださいよ、、私は貴方のことを心の底から敬愛しています。これからもどうぞご贔屓に...」


クンニス王の丁重な物言いを無視し教皇は当たりをキョロキョロと見回す。


「一人で来たのか?全く、覇王とされる男のなんと無警戒なことか...」


教皇は小さく息を吐いてため息を着く。


「いえ.......外に二人、付き人を控えさせています。そのうち一人は覚月雨カミダレですよ。」


王は得意げに顔を歪ませ答える。


覚月雨カミダレ....お前夢喰主名バクナになったのか?」


教皇は驚いて目を丸くし、感心した様子で自慢の髭を撫で付ける。


「ええ、人に試すにはまず自分からなさねばなりますまい」


王は愉快そうにそう答えるのだった。


教皇はスッと手を前に出しクンニス王に座るよう促す。


「失礼」


一言添えてクンニス王は向かいの席に着く。


教皇はおもむろに純銀のボトルと水晶クリスタルのグラスを取り出す。


慣れた手つきでコルクを外すと、グラスを斜めに傾け、空気を含ませるようにボトルをグラスから離しながら注ぐ。


傾けたグラスを戻しながら赤い液体が注がれていく。


グラスの八分目まで赤い液体が満ちた所で注ぐ手を止めると、教皇は満足した様子でグラスを指で抑え机の上を滑らせるようにしてグラスを前に突き出す。


「レスレトロ ランテラ ガガルの森、蒼雲域で取れたミミカの実。発行させたヨーネルナッツをよく混ぜ合せ寝かせた...上品でシンプルな蒸留酒ブランデーだ」


「こりゃどうも」


クンニス王は軽くグラスを上に掲げ教皇に向け会釈し祝杯をあげる。


グラスを軽くスワリングし香りを堪能した後、口に運ぶ。


「それで、本当に見れるんだろうな、ブラッドトリガー」


教皇は両手を組みながらクンニス王に問いかける。


「ええ、そのための動きですから。今回は少なくとも三人見れますよ」


言い終わるとクンニス王は再度ブランデーを口に運ぶ。


「ふふ、そうかそうか」


教皇は満足そうに頷くと懐からガラス瓶を取り出す。


教皇の取り出した瓶の中にはなにやら白い植物の種のようなモノが見える。そして種をぐるりと一周するように様々な色を放つ光輪が覆っている。


「ほれ、お望みの種だ。使用前までに常温の水に浸けておくんだぞ」


「いいねぇ パリピっぽい」


王は七色に光る種を見て口角を釣りあげてそう言った。


「ぱりぴ?」


「まぁよい、中に厄鎖ヤクサをばら撒くのは危殆きたい...リスクに見合うだけの面白いものが見れるのだろうな?」


「もちろん!!さっき言ったけどブラッドトリガーの件もあるしそれにもうひとつ、目玉が...」


「採血か」


「ごもっとも、あの蒼い血を次ぐもの、転生体....いったどれだけ強く、気高い精神の持ち主なんだろうねぇ」


数刻前貧民窟─────────


ディーンは短距離選手バリの綺麗なフォームで逃走していた。


「ひぃ~危なかった。マジでこんな状況なのにあんな奴に命を狙われるなんてどんだけついてないんだ僕は」


「でも、良かった。

あの女にありもしない恩を着せといて、ラノベの知識はこういうときに、役に立つんだよなぁ」


「さてと、だいぶ突き放したし、いい感じの場所もあるし、あそこで休もう」


ディーンは倒壊した家屋の居室から椅子を拝借しそこに腰掛ける。


しかしそこにはフェイラですら倒す事の出来なかったバケモノが潜んでいた。


グオォォォォォ


「ゲニャ〜ン!!休憩もできねぇ」


もう何度目になるか...ディーンとバケモノの鬼ごっこが始まるかに見えたが突如、オッドアイを持つ少年が上から降ってくる。


少年は落下の勢いのままバケモノの項後うなじめがけ貫手を放ち瞬時に絶命させる。


「へにゃ?」


突然の出来事にディーンはパニックになる。


「やぁ!」


少年は満面の笑みでそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る