第13話 ブラッドトリガー

──────蠍尾大聖橋下貧民窟


巨鯨から産み出された化け物達により、人々は無慈悲に蹂躙されていた。


「キャァァ」 「だ、誰か助けて...」


「痛いよ」 「おかあさぁぁぁん」


逃げ惑う人々で貧民窟は阿鼻叫喚の地獄と化している。


そんな中、辺りを冷静に俯瞰ふかんする男がいた。


男はまるで自然に溶け込むような緑と茶色を基調とした上着に、膝の破れた青藍色インディゴのズボンを履いている。


肩から斜め掛けにされた革ベルトには、なにやら鉄と木で作られた奇怪なモノが吊り下げられている。


男は右下に視線を落とす。


視線の先には八歳前後の男の子がいた。


黒髪を耳上まで刈り上げ、前髪から後ろまでぐるりと1周綺麗に切りそろえられており、仕立ての良い服が育ちの良さを全面に現している。


「大丈夫か?」


男は問いかける。


男の子はオッドアイの瞳で男を見てこくりと首を縦に振る。


「ヴァン、ここ煙たいよ...」


男の子はウンザリしたように手で煙を払う。


「仕方がない、我慢しろ」


ザ、ズザ...


何かが地面を擦る音が後ろから聞こえてくる。


「ゔ、ゔぅ゙...だ、だずげでぐれ」


黒煙立ち込める建物の陰から全身が燃立つ男が地を這いながらヴァンのズボンの裾を掴んだ。


「助からねぇよ」


ヴァンは心底どうでも良さそうに短く返答し足を引いて男の手を払い除けると、おもむろに胸のポケットからタバコを取り出し始めた。


そのまま火だるまになっている男に向き直り屈むとタバコを男に近づけ火をつける。


中指と薬指の間にタバコを挟み手で口を覆うようにして深く吸い込む。


「フゥー」


──────────8ヶ月前


青々とした草の生える森で

男女がなにやら話し込んでいる。


ヴァンともう1人はエニアだった。


「いい加減教えてくれよ赫漿ヴェル・アラの極地、機血覚起因ブラッドトリガーをよ」


「無理、力を扱いきれてない今のあなたには」


「大きな代償を伴うことになる」


「覚悟は出来てる」


「教える気は無いわ」


「だったらお前を倒して聞き出すだけだ」


「私に勝てると思ってるの?」


「さぁな?ここでお前に負けて死んでも悔いは無い」


「あっそ、試してみれば?」


──────────────


追想を終え、ヴァンはタバコを指で弾いて捨て立ち上がる。


「遂に使う時が来たか」


「アレを覚えて俺は最強になった。ただし...」

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