第11話 火炎樹

「はぁ、はぁはぁ」


ディーンは右腕を抑えながら走る。


血飛沫が周囲に飛散する。


朦朧もうろうとする意識の中、なんとか建内に逃げ込む。


安心し、一息ついて空を見上げる。


瞬間、ディーンの顔が強ばる。


天窓から複数の化け物が目玉をひっきりなしに動かしこちらを伺っているのが見えたからだ。


慌てて物陰に隠れる。


縮こまって息を潜めていると、なにか断続的に足音がする。


足音はどんどんとこちらへ近づいている...


手に汗が滲みどうしようもなく足が震える。


足跡は遂に真横を通り過ぎ目の前で止まる。


恐る恐る顔を上げるとそこには一人の女が立っていた。


女は赤髪を腰まで伸ばし、頬にはそばかすがあった。


「あなた、バケモノ?それとも人?」


女は慄然とした様子で震える声でディーンに問いかける。


「人だよ」


ディーンは投げやり気味に答えた。


「ホントに?」


女はディーンの血を怪訝そうに見ながら再度問う。


「はぁー別に信じなくてもいいけど...」


ディーンは心底ウンザリしながら吐き捨てるようにそう言った。


「その腕、あの化け物にやられたの?」


「あたしも、脚をやられちゃってね」


女の右脚には何かに噛まれたような傷があった。


「あたし達、協力しない?お互い負傷して誰かの力が必要でしょ?」


「バケモノか疑うようなヤツと協力なんて出来るわけないだろ!...うっ」


ディーンは興奮したことで失血し、一瞬視界が白む。


「疑ったことは謝る。ごめん、こんな状況だしそれに..その、青い血の人なんて初めて見たから」


「でもお互いそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ?」


「わかったよ」


ディーンは渋々といった様子で了承した。


「あたしルリフェ」


「ぼ..ぼくはディーン」


「よろしくディーン」


「よ、よろしく」


握手をしたその勢いのままルリフェと名乗った女はディーンを引き起こす。


二人はお互いの怪我を補い合う方向で話をつける。


片腕がなく、バランスの取りずらいディーンと片足に傷を負ったルリフェ。


二人は肩を組み、お互いの身体を支え合い、化け物よりも高い位置へと逃げることに決めた。


二人は肩で息をしながら螺旋階段を昇っていく。


「あ、あと少し...だね」


「はぁ、はぁ、そうね」


屋上から陽光が差し込んでくる。


二人は顔を見合せ自然と笑を零す。


そんな淡い希望も打ち消すかのごとく、轟音と共に外壁を破壊し化け物がこちらへ向かって腕を伸ばしてくる。


「うわあああああ」


ディーンは恐怖から一人で階段を駆け上がる。


「ちょっ、まっ」


ディーンが独りで先に逃げてしまったことでバランスを崩しルリフェは転倒してしまう。


化け物の手がルリフェの足首を掴む。


「た、助けて!」


ディーンはハッとして慌てて階段を駆け下り手を伸ばす。


が、化け物が視界に入り咄嗟に伸ばした腕を引っ込める。


「なん───────爆裂音とともに一瞬目の前が紅焔に染ったかと思うと、ルリフェの伸ばした右腕を残し、視界の全てが消し飛ぶ。


建物は、下方が半壊し、崩れたジェンガのように垂直に自由落下する。


凄まじい速度で地面が迫り、一瞬で激突する。


瓦礫の山からディーンの上半身がはみ出て、力無く地に伏していた。

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