未来への後悔

@NunoCat

未来への後悔

大学のサークルでの飲み会だった。私の視線は常に彼に向けられていた。仲間たちがワイワイと楽しそうに話している中で、私だけが彼との会話を待ち望んでいた。グラスをくるくると指で回しながら、彼の口元に飛び込む笑顔をじっと見つめていた。彼の視線が私に向けられることを切に願っていた。


「どうしたの?考え込んでる?」友人のミナの声で我に返った。頷きながら彼を見つめる私の表情を見て、ミナはすぐに理解した。彼女は私に笑顔を送りつつ、彼の方へと視線を投げた。それがサインだった。私は心臓が高鳴る音に耳を塞ぎながら、彼の方に歩み寄った。


「ねえ、ちょっと話してもいい?」頼むように彼に声をかけると、彼は驚いた顔で私を見つめた。でもすぐに、その表情は温かな笑顔に変わった。「もちろん、何だい?」彼の言葉に胸が高鳴る。私の話を聞いてくれるなんて、この瞬間をどれほど待ち望んでいたことか。


でも、その喜びも束の間だった。「ねえねえ、私が紹介した子どう?いい子でしょ?」突然、彼と仲の良いユキが私たちの間に割り込んできた。全てが一瞬で止まったかのように感じた。その一言に、私の胸はヒリヒリと痛みを伴った。


私の目が彼を見つめていた。彼の微笑みが映った。「悪い子じゃないよね、気も合いそうだし」と彼が言った。その言葉は、まるで私の胸に冷たい水をぶっかけられたようだった。彼の口から出るその言葉が、私の心をバラバラにした。


私はただ、ぽかんと見つめていることしかできなかった。まるで、信じられない現実を目の当たりにしたかのように。ユキが彼に紹介した子。その一言だけで、私の中には理解できない混乱と、何とも言えない焦燥感が広がった。


「今度デートするんだって?」ユキの言葉が私の耳に響いた。彼はにっこりと笑いながらうなずいた。私の心は、まるで底なしの深淵に突き落とされたように落ちていった。


私がどれだけ彼とのデートを夢見ていたか。どれだけ勇気を振り絞って、彼と二人きりで過ごす時間を作ろうとしていたか。私の胸の中には、その想いが溢れていた。


ユキはまるで何も気にせずに話を続けた。「付き合っちゃえば?」彼は顔を見ずに答えた。「向こうにその気があれば、付き合っても良いかな」


私の心は、まるで何千もの針で突かれるような痛みに襲われた。私も彼に告白すれば、彼との未来が広がるのだろうか。でも、私の心には、それを実現するための勇気がどこにもなかった。私はただ、自分の弱さと無力さに打ちのめされていた。


一か月後、再び飲み会が開かれた。私たちは相変わらずのメンバーで集まっていた。そこで私は、勇気を振り絞って彼に尋ねた。「この前の子とはどうなったの?」


彼の返事は、私の心を引き裂くようだった。「付き合うことになったよ」


その瞬間、私の心は大きな穴が空いたように感じた。息が苦しくなり、吐き気がした。彼が他の子と付き合うなんて、想像だけでもつらすぎた。


そして、もう一つの質問。「その女の子のこと、好きなの?」


彼の答えはまるで心臓に鋭い刃を突き立てられるようだった。「うーん、まだ分からないな。でも俺のこと好きだって言ってくれるし、付き合っていくうちに好きになるかもしれないし。」


私の心は、彼の言葉に砕け散った。私は彼のことが好きだった。ずっと、ずっと前から。その感情は、私の中で大きくなっていたのに。


女の子を彼に紹介したユキ。彼を私から奪ったその女の子。私の心は、彼女たちに対する怒りでいっぱいだった。


私は彼の存在すら忘れて、ただただ一杯、また一杯と酒を飲んだ。まるで自分の心の痛みを酔いで忘れようとするかのように。

気づけば、私は見知らぬ部屋のベッドで目覚めていた。そして、私の隣にはサークルメンバーのタロウがいた。何が起きたのか、すぐに理解できなかった。でも、その後、すべてが一気に私の頭に浮かんできた。自暴自棄になって、タロウと寝てしまったのだ。

そう気づいた瞬間、私の胸は痛みでいっぱいになった。それは身体の痛みではなく、心の痛みだった。私はただ泣き続けるしかなかった。


何か月も経つと、私の体に変化が起こった。それは、妊娠だった。私は呆然となり、タロウにそのことを告げた。彼は、困惑しながらも「責任を取る、結婚しよう」と提案した。


私にとって、それは不本意な結果だった。彼を愛していなかった私だけど、この子のために、無理をして彼と結婚した。そして、やがて出産。元気な女の子がこの世界に誕生した。


その後、私がかつて愛していた彼は、彼女と別れたと聞いた。そのニュースを聞いて、彼と話がしたくなった。でも、私には既に夫と子供がいる。彼を諦めるべきだとわかっていても、心の中で彼への思いが消えることはなかった。


愛していない夫、愛せない子供、そして忘れられない彼。私はそんな絶望感と戦いながら、人生を歩き続けるしかなかった。

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