第11話 師を越えんと願うがため
壁画の洞窟の最奥は一種の安全地帯になっている様で一度俺はログアウトする事にした。ゲームを始めてからいつの間にか5時間以上経っているが、モチベーションが衰える感じは全くしない。
水分補給とトイレを済ませ、夕食を食べてからまたログインする予定だ。
親父も今日は同僚と飲んで帰るから飯は要らないらしい。母親は海外に単身赴任中で兄妹も居ない俺は、家に一人だ。適当に冷凍食品を温めて済ませた。
「なんだこれ」
一応戸締りを確認する為に玄関に降りると、玄関ドアに付属するポストの中に親父宛の手紙が入っていた。普通の郵便物とは違い、かなりしっかりとした便箋で思わず手に取った。
「差出人はっと」
便箋を裏返すとそこには「株式会社ノストラ【ユニバースセブン】AIシステム開発事業部」と書かれていた。
「はぁ? なんで親父に“ユニなな”の開発から手紙が届くんだ?」
この便箋は親父宛ての物だ。勝手に見ていい理由は無いが……無性に気になる。
のりはある。両面テープも。慎重に開けて封をし直せば多分バレないし、バレても酔った親父が開けたんだろとか適当に言って置けばあの親父の事だから多分信じる。
「よし、開けるか」
秘密保持契約的な内容でも、俺が口外しなければ親父に迷惑が掛かる心配も無いだろう。この中身は絶対に誰にも喋らないと誓い、俺は封を開けた。
◆
「おはようございます、カツラギさん」
どうやらログアウトしている間の俺は、NPC視点では「眠っている」という事になっている様だ。
「あぁ、待たせたな」
「いえ、カツラギさんがショートスリーパーで助かります」
ログアウトしていたのは1時間程度だから、そういう認識になる訳だ。良くできたゲームだな。
「
クールタイムの終わったスキルを使い二号を召喚する。既にテノアとはパーティー登録されているので、現在は2人分のHPとレベルと名前が視界の端に見えている。
地味に二号の表記が「二号」になってる所が、このゲームの凄い所だ。
召喚された二号が俺を見る。
「まぁ……それくらいじゃねぇと説明はつかねぇよな……」
思い出すのは先ほど見た手紙の内容。
「まさか親父がユニバースセブンのAI開発に関わってるとはな」
チュートリアルで戦ったあの剣豪スライムの強さは異常だった。読みや技術、体や足の捌き方は素人のそれでは無かった。その動きが異様なまでに親父に似ていたのも事実だ。
あの手紙は、剣豪AIの開発協力のお礼の手紙だった。
剣豪スライム……確か【ソードジェネラル・スライム】は【
「どうかしたんですか、カツラギさん?」
「この世界でやりたい事が見つかった。って所かね」
「なるほど、ではその為にも早く集落に行きましょう。
装備やアイテムの補填をして、早く次の遺跡に向かわなければなりませんから」
「おい、それって」
「いえ、カツラギさんの御手は煩わせませんよ。
これは僕の夢で、カツラギさんにはカツラギさんの夢があるのですから。
でも、集落くらいまでは同行してもいいでしょ?」
「まぁ、俺集落の場所分からないからな……」
俺が頬を掻いているとテノアはクスリと笑って歩き始める。
「沼地を越えれば集落は直ぐです。その前にエリアボスがいますけど……」
「倒して進むさ」
「お願いします」
洞窟の出口に向かいながら片手間に【オア・プランツ】を倒していく。結構アイテムが溜まって来たな。
インベントリの重量制限はまだ来ていないが、そろそろ換金しないとやばい気配がする。
「あ! 金色の奴が居るぞ!」
二号が叫んで指した方向を見ると確かに黄金に輝くオア・プランツが走っている。そいつと俺たちの目が合った瞬間、そいつは「やべっ」みたいな顔をして逃走し始めた。
「あれはオア・プランツ・ゴールデン!?
テノアのそんな解説を聞いた瞬間、俺と二号の声が重なる。
「「シャドウアクセル!」」
一瞬で接近し、左右から同時に刀を振り抜く。
こういう時は何故か動きが合うんだよな。オア・プランツ・ゴールデンはポリゴンとなって霧散していく。そして……
・
金属や宝石の魔力を栄養とするオア・プランツが過剰に魔力を吸い取る事で、様々な宝石の魔力が混ざり合って形成される特別な宝石。高い魔力純度は黄金の満月の魔力とも形容され、月光から魔力を吸収する性質を持つ。
最低でも100万マイルで取引される。
「うぉぉおお!」
「っしゃ!」
ラッキー!
と、思っていた時期が俺にもありました。
あのね。確かにちょっと幸運だったと思うよ? そんなにリアルラックが良い方でも無いし、ゲーム内LUCが高い訳でもないのにマジラッキーって思ったよ? けどさ。それはちょっと違うじゃんっていうか、無理矢理とヤケクソって言葉を混ぜて二倍にしたみたいな調整してくるのやめろ。
「【
エリアボスである
「「あはは……」」
乾いた笑いとはまさにこのことだろう。無駄に動き難い沼地を漸く越えて集落に辿り着けるという寸前。最後の門番として立ちはだかったのは、後に1万分の1以下の確立でしかスポーンしないと知る超レアな特殊固体だった。
あぁ、けどこれはアレだな。マジのガチの滅茶苦茶の、クソラッキーって奴だよなぁ!? 特殊固体って事はレアドロップするって事だもんなぁ!? そう思わなきゃメンタルの高低差で風邪ひきそうだぜ。
「はははは、ぶっ飛ばす!」
「あははは、素材ブン盗る!」
《戦闘時のステータス補正》
STR・魔力に関係しない近接攻撃のダメージと与える運動量を補正。
INT・魔力に関係するダメージと与える運動量を補正。
VIT・攻撃を受ける場合のダメージと運動量の軽減率を補正する。
DEX・クリティカル範囲を補正する。
LUC・クリティカルダメージを補正する。
AGL・身体の運動速度の全てを補正。
SEN・五感に補正。
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