第10話 古代の真実は其の出生に


「少し先に龍道山脈ドラゴンルートの中に抉り込む洞窟があるんです。その洞窟内の壁画を調査したくて」


「壁画の調査?」


「幾ら出せんの? ていうか女の子の友達多い?」


 おいバカ。

 二号の頭を小突くと、少年は愛想笑いを浮かべて話始めた。


「あ、自己紹介もせずにすいません。僕はテノアートと言います。

 駆け出しの考古学者をしてまして、今も調査中です。

 貴方方のお名前をお伺いしてもいいですか?」


「カツラギだ」


「カツラギだ」


「えっと……」


 困った様にテノアートは笑う。

 ていうか、テノアートって何か長く感じるな。


「こいつは俺のスキルで出してる分身だ。

 基本無視でいいぞ」


「よくねぇよ。

 よろしくテノア、俺はまぁ二号とでも呼んでくれ」


「分かりました二号さん、僕もテノアで大丈夫です。

 来訪者プレイヤーは皆さん神操術スキル使いだと聞きます。その一種という訳ですね」


「その言い方だとNPC……げふん、現地人はスキルを使えないのか?」


「使える人は稀ですね」


 なるほど、それが俺たちに与えられた主人公要素って事なんだろう。まぁ、正直ストーリーとかそういうのにはあまり興味が無い。考えるのが得意って訳じゃないから謎解き系もノーセンキューだ。


 けどまぁ、初のクエストな訳だし。


「報酬によっては受けてもいいな」


「報酬ですか……お金はあまりありませんが、洞窟内には鉱石もあるらしいので手に入った物は全てお渡ししますよ。僕は遺跡や化石の掘り出し用に採掘道具も持ってますから」


 金属や鉄が採取できるって事か。

 今の初期武器を強化したり買い替えたりするにしても鉄は必要だろうしな。


「よし、それで手を打とう」


「よろしくな」


「はい、心強いです!」


 そんなこんなでテノアと共に近くの洞窟にやって来た。歩いて10分程度の場所だったので、敵を倒しながら進んでも20分程度しか掛からなかった。


「ここか」


 渦巻状の山脈、テノア曰く龍道山脈ドラゴンルートというこの山脈は、名前の通り昇って行くとドラゴンが生息しているそうだ。リスポーン地点があったら行ってみるか。


 その山脈の崖が見上げられる絶壁の一か所は確かに空洞になっている。


「ここです。大昔にここには最初の人類の街があったそうです。殆どの痕跡は自然災害や魔物の影響で消えていますが、この洞窟の中は割と保存状態が良いと考古学者ギルドで聞いたんですよ」


「そうか」


「へぇ~」


 俺が興味無いんだから二号も同じだろう。

 テノアの解説を聞き流しながら進んでいく。


「お、鉱脈発見」


「よし二号、採掘しろ」


「おめぇもすんだよ」


「ピッケル2つありますよ」


 くっ。何故俺がこんな面倒な事をと思ったが、やってみると案外楽しい。「ユニなな」の採取は、フィールドの所々にある採取ポイントで特定動作を行えばいい。


 鉱石の場合は鉱脈ポイントをピッケルでぶっ叩くだけで勝手にインベントリに鉱石が入って行く。その内容がウィンドウで表示されるから、叩くたびに貯蔵される感じが癖になる。


 現実ほど疲労感も堪らないし。ま、鉱石採掘なんてリアルでやった事ないけど。


「モンスターも出るんだな」


「【オア・プランツ】。鉱石の魔力を栄養にして地下で育つ植物系の魔物です。倒すと蓄えた栄養を結晶化した金属や宝石が手に入りますよ」


 宝石。そう聞いて真っ先に思い浮かぶ用途は換金だ。

 「ユニなな」は、魔物を倒すだけでは金が手に入らない。街を見つけても金が無ければ施設を利用する事も装備を補充する事も難しいだろう。


「ちょっと稼いどくか」


「いいぜ」


 現れたのは宝石の様な花を頭に付けた、小人の様なモンスター。首の部分の蔓を伸ばし、宝石で殴りかかって来る。しかも、宝石の色に対応した魔法的な現象を発生させながらだ。


みずほのおは効果範囲結構あるな」


かぜの奴は攻撃が透明だから注意」


黄色かみなりはレアだから積極的に狩りに行こう」


ひかりやみも居たぞ!」


 強さはそれほどでは無いが、効果範囲が多いのと結構群れて出て来るパターンがあるので油断は禁物な相手だ。それに、宝石が手に入るという餌で俺たちの思考を前のめりにさせるデバフがついてる。


「知ってるか、金持ちってモテるんだぞ」


「知らねぇな。俺が知らねぇんだからお前も知らねぇだろ」


「僕も植物魔法が少し使えるので援護します!」


 所々生えた根っこを操って敵の動きを封じるバインドは、結構役に立った。


 そのまま俺たちは洞窟の奥へ進んでいく。そして、最終地点には確かにテノアの目的の物が存在していた。


「これが壁画か」


「はい。千年以上前の方が書き残してくれた物です。翻訳してみるので、少し待っていてください」


 壁画には絵と文字が描かれている。文字の方はさっぱりだが、絵の方は何となく意味は分かった。


 土下座に近い姿勢の人間たち。その向く先に天を舞う女の姿が6つ。けれど、その横の画では6つの天女が1つまで減り、6体の化物と並んで描かれていた。


「神話か何かか?」


「はい。今でも信じられている「六女神教」の原典となった物語でしょう。

 えぇっと……我等が生まれた時、六柱の女神が存在した。名をウルス、ルミナス、シア、セクトラ、ビースト、ティルアートという」


「ティルアートってお前の名前に似てるな」


 二号がそう笑うと、テノアは冷静に応える。

 テノアの方が随分と大人っぽい。


「えぇ、僕の両親は女神の一柱であるティルアートから僕の名前を考えたそうですよ。僕が考古学者を目指した理由の一つでもあります」


「なるほどな」


 凝った設定だことで。


「女神ってくらいなのにアポルの名前は無いのか」


 俺が会った事がある唯一の女神なんだけどな。


「アポル……? という女神は聞いた事がありませんが、この壁画にはもう一柱の女神の事も描かれています」


 テノアは、六体の化物と並ぶ女神を指して言った。


「七柱目の女神。

 空の女神は他の女神を裏切り「殺し」その心臓を六体の眷属に食わせた」


「急にスプラッターだな」


「アポルさんはそんな事しないもん」


 もん、じゃねぇよ。

 だが、空の女神=アポルって決まった訳じゃ無いか。


「女神を失った私達は穴倉でしか生きられない。だから、未来を生きる名も知らぬ貴方にこの願いを託したい。いつか必ず、あの裏切りの女神を殺してくれ。

 と書かれてますね」


「アポルさん……」


 7体中6体死んだなら、残り1体な訳で。

 って事はアポルは普通に生きてたから、アポルがその裏切りの女神って可能性が高い訳だが、まだかなりの序盤って事を考えるとシナリオにミスリードされてる感じも否めない、か……


 分からん。


「まぁ、会った時に聞けばいいだろ」


「お? お前「女とか興味ないね」みたいな態度しといて結局会いに行くんじゃねぇか。キスは俺のモンだぞ? 約束したの俺なんだから」


「今んとこ目的って目的がそれしかねぇだけだ。別に……」


「へっ、このムッツリが」


 安全な所に行ったらこいつにはPVPで分からせよう。絶対にだ。

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