第9話 鬼を相手に試し撃ち


「間違いない、レディの声だ……!

 行くぞ一号!」


「ちょっ、おい待て!」


 俺の制しも効かず、二号は声がした方へ走っていく。

 影分身のスキルを切る事もできるが、そうするとまた30分近く召喚できない事になる。これじゃあ「クエスト」を受けない選択肢が無いじゃ無いか。


 表示されたウィンドウの「イエスマーク」を指で押すと俺も二号を追った。


 つか、レディってなんだよ。俺そんな事言った事無いぞ。



 二号を追うと、森林の中の少し開けた場所に出た。

 そこにいるのは3人。いや厳密には2人と1体か。

 倒れたNPCと二号、そして鉈の様な武器を振り上げる「赤い大鬼」の様な外見のエネミーだ。


 二号とエネミーが向かい合い、お互いに形相を浮かべている。大鬼は元来そういう顔なんだろうが、二号の奴は何でキレてんだよ。


「こんなの……詐欺だろ!」


 そう叫び、二号が赤い大鬼へ飛び掛かる。


「何言ってんだあいつ……」


 俺の独り言の横で、さっきの叫び声の主であろうNPCが話し始めた。


「あれは、火烈の大鬼ニトロオーガというこの辺りを縄張りにしている強力なモンスターです。あの人一人じゃ……」


 と、NPC冥利に尽きそうな解説を交えてくれた……子供?

 そう、そのNPCは14か5くらいの少年だった。

 声が高かったのは、まだ声変わり前って事だろう。


「それでキレてんのかあいつ。

 マジで同一人物だって事を忘れたくなる」


「え、双子……?」


 俺の顔を見て、少年NPCはそう言う。


「違う」


「あっ! そんな事より早く、あの人を助けてあげてください!」


 俺に懇願するように少年はそう言ってくるが、俺の視線はずっと二人の戦闘に向いている。それでも介入しないのは必要ないと思ったからだ。


 二号が影を纏ったダッシュで鬼へ迫る。鬼はそれに合わせて鉈を振り下ろすが、影の中を鉈は一切の手応え無く通過・・した。その隙を見て二号の刀が3度振るわれる。首、手首、腹を斬られ、普通の人間なら即死してる傷だ。


 けれど、相手はゲーム内のモンスター。HPという壁が、奴の生命を維持させる。


 三刀目は後ろに飛びながら放った一撃で、鉈が再度振るえる様になる頃には既に二号は、鉈の届かない距離まで逃げている。追撃とばかりに銃弾を4発当てた。


「グォォォォ」


 沸点を越えた様な咆哮を叫び、大鬼が突進する。それと同時に鉈に炎が纏われた。


「俺は今、頗るムカついてんだ」


 二号が睨む。

 その姿を見て、大鬼が少しだけ臆した様なそんな気がした。

 再現度凄いな。


「ガァ!?」


 大鬼が叩きつけた鉈が、分身のパリィで弾かれる。既に二号の左手に銃は無く、二号が両手で刀を持っている。


 スラッシュのスキルエフェクトが刀から漏れ、大鬼の肩を割く。

 即座に刀が引かれ、二度目のパリィエフェクトが輝る。大鬼は刮目し、己の弾かれた刃を空に重ねた。


「ァ――――――」


 今にも途切れんとするガラガラ声は、二号の突きが首を貫いたと同時に停止。首を抜いた刀を一瞬放し、逆手に持ち替える。


 大鬼の左拳に炎が集まっている――事に、二号も気が付いている事が視線で分かった。


「ァ!」


 炎を纏った拳が付き出された瞬間、二号の体をまた影が覆う。ステップが変化した「シャドウステップ」は、挙動自体はステップと全く同じだが、エフェクトが影の様になりステップ中に任意のタイミングでほんの一瞬「シャドウ」という特殊効果を自分に付与する。


 その効果はほんの一瞬の事ではある、が。

 その間に接触した全ての固体を透過する。


 要するに、一瞬だけ「無敵」になるスキル。

 それが、シャドウステップとシャドウアクセルだ。


 炎の拳を透過させ、二号は刺した刀を持ったまま大鬼の側面へゆっくりと移動する。その動作に伴って、刺さった刀が大鬼の首を裂いていく。貫通した刃を半周させ、勢いよくそれを抜く。


 大量のポリゴンが、大鬼の首から散らばった。


「強い……」


 少年が小さく呟く。


 当然だ。剣豪スライムに比べればこの炎鬼、火烈の大鬼ニトロオーガだったかの技量は大した物ではない。炎を纏っていようが、ただ振り回すだけの攻撃が当たる訳ねぇし。


 あの火烈の大鬼ニトロオーガというエネミーは、炎を同時に一カ所にしか使えないらしい。証拠にブンブンと振り回す鉈の炎が解けている。


「HP多いんだよ」


 二号が愚痴っているが、どちらかと言えば俺たちの攻撃力が低い。

 レベル11だし。初期装備だしな。


「それ、寄こせ」


 振り下ろされる鉈に対して刀から手を放した左手を、宛がう。

 白刃取りのスキルは、相手の武器の運動に対して垂直の打撃を当てる事で、その武器を手元から吹っ飛ばす事ができる。


「危ない!」


「心配しなくていいぞ」


 まぁ、勿論それには相応のSTRが必要になる訳だが、二号にはそんなパラメータの強さは無い。

 だから、もう一つのスキルを右手で同時に発動している。


 影突き。

 対象の影に刃を突き刺す事で、対応する部位へその突きが持つダメージの半分を与える。だが、このスキルの真骨頂は影に対してのダメージではなく、突き刺した影と対応する部位に対して「硬直」のデバフを与える事だ。


 これもほんの一瞬ではあるが、振り下ろした大鬼の肘が一瞬硬直する。

 その瞬間を狙って白刃取りで鉈の側面をぶん殴ると、鉈が大鬼の手からすっぽ抜けて吹き飛んだ。


「さんきゅー」


 言葉と影に刺した刀を残し、シャドウアクセルで二号は鉈へ走った。


「ガァァァァ!」


 影に刺さった刀を抜き、大鬼も二号と鉈を追う。けれどシャドウアクセルで直線疾走に補正が掛かっている二号の方が先に鉈の落下地点へ到達。


 大鬼用の巨大な鉈を、両手で握り。


「キャッチ&スラッシュだ」


 スキルエフェクトと共に、鉈が大鬼へ叩きつけられた。


 流石にHPが全損した火烈の大鬼ニトロオーガは、ポリゴンと素材になって消し飛んだ訳だが、まぁ新しいスキルの実験台くらいには成ってくれたか。


「ストレス発散の相手としては、まぁ悪く無かったかね」


 余裕の表情で帰って来た二号を見て、俺の隣で唖然としていた少年が足り上がり少し大きな声を出しながら駆け寄った。


「お願いします! 僕の護衛をしてくれませんか!?」


 どうやら、まだクエストは終わって居ないらしい。

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