第8話 自分を見つめる機会


 巨大蜻蛉が俺を目掛けて迫る。

 タイミングを合わせ、思念操作でスキルを発動。


 パリィは蜻蛉の羽を弾き、その体を地面に叩きつけた。


 追い打ちで俺と二号の鉄刀が何度も叩き込まれる。既に蜻蛉は満身創痍。


 俺がパリィする時は二号がカバーする。

 二号がパリィする時は俺がカバーする。


 その作戦は上手く決まり、結局突進と翼で打つ以外のモーションが「尾による薙ぎ払い」しか無かった巨大蜻蛉はボロボロになっていた。


 赤い粒子を体の至る所から溢れさせ、切り傷の絶えないその体で何とか体を持ち上げる。どうやら「部位破壊」の様な事はできないらしく、翼を執拗に狙ってみたがダメージエフェクトが出るだけだった。


 それでも巨大蜻蛉はHPの低下に伴いスタミナも無くなり、動きも鈍くなっている。


「キィィィィィィィ」


「何っ!?」


 死の間際、一際甲高い音を鳴らし蜻蛉の口が大きく開いた。

 その口は二号を向いていて、何か風の様な……超音波の様な攻撃が二号の体を吹き飛ばし、一瞬でHPを消し飛ばした。


「それがお前の隠し玉か……

 けど、狙いを外したな」


 こいつにしてみればどっちが本物も偽物も無いのだ。

 ならば、分身を狙ってしまうのも仕方ない。


 けど、後3秒なんだよな。


 3、2、1。



影分身シャーヴァント



 このスキルのクールタイムと効果時間は30分。クールタイムは効果時間中も進む。

 俺がこの大地に立ってから30分が、今経過した。


 つまり、もう一度スキルを使えるタイミングだ。


「死んだわ……」


「まぁ初見だしな」


 蜻蛉の体に入った力が抜ける。

 まるで「なんだよそれ」と言わんばかり。


「じゃ、止め刺すか」


「ドンマイ、蜻蛉君」


 二本の鉄刀で突き刺すと、蜻蛉はポリゴンと素材になって消えた。


「レベルアップだ」


「スキルも増えたな」



――

影分身シャーヴァント

スラッシュ10

パリィ10

シャドウステップ1

シャドウアクセル1

影突き1

白刃取り1

ショット2

――



 と成っている。

 ステップは影分身に進化しても消えなかったけど、シャドウステップが発生したら消えた。この違いは……ふむ、スキルには「進化」と「変化」があるらしい。


 進化は、その技を踏み台に新な力を生みだす事。

 変化は、その技自体が別の目的や技術に成る事。


 進化ではスキルは消えないが、変化すると元となったスキルは消えると覚え置けばいいか。


 スキルにはランクが存在し、進化の場合はランクが上がる。俺のスキルの場合は「スラッシュ」「パリィ」「シャドウステップ」「シャドウアクセル」「ショット」がランク1。


 ランク2が「影突き」「白刃取り」。

 ランク3が「影分身シャーヴァント」という事になる。


 ランクは当然スキルの強さを表す訳だが、高ければいいって訳でもないらしい。確かにランクが高い方が威力は高いが、その分クールタイムは長くなる傾向があり、代償が発生する物も多くなる。


 それにスキルには「スキルスロット」というメインレベルによって決定されるスキルを持てる最大数が存在し、ランクが高いスキル程スロットを多く消費する。


 ランク1は、使いやすい、沢山使える、代償が少ない。

 ランク3は、使いにくい、再使用までが長い、代償が大きい。


 そんな感じだと思う。

 スキルスロットや占有率はここじゃ確認できないから専用の施設に行かないといけないらしい。


「さて、どうするかな」


「何がだ?」


 これは分身と俺の違いだな。

 分身は俺の装備やアイテムをそのままコピーして使ってる。つまり、二号の目線では道具は殆ど無限に近いのだ。


 だが、俺にとっては違う。


「武器の耐久力がギリギリなんだよ。銃の弾丸も少なくなって来たし、転がったり敵の攻撃を受けたりもしたから防具のメンテナンスだってしたい。

 全体的に装備の手入れが必要なんだ」


「あー、俺もそれは賛成。こんな森の中じゃ奇麗なお姉さんも、可愛い女の子とも遭遇できやしねぇし」


「お前は女の事ばっかだな……この世界でしか現れられないのに、女遊びなんて無理じゃないのか?」


「お前が遊ぶんだよ。俺とお前の記憶は同じで、そもそも俺もお前も同じ人間だ。俺を好きな奴はお前を好きだし、お前を好きな奴は俺を好きだ。

 要するに、お前が体験すればそれが俺の記憶になるんだ。

 俺は全くそれで満足だね」


 俺と二号の一番の違い。

 それは俺は現実を生きる人間で、二号はこの世界にしか居ないNPCという事だ。


 けれど、はつらつと笑う二号の表情に悲観的な物は一切感じられない。本当に今言った事を思っているらしい。


 俺は二号で二号は俺。


 そんな自覚も、俺にとっては不思議な感情だ。俺が逆の立場なら、間違いなくそんな現実は受け入れられない。


 けれど、二号はそれを自覚していて受け入れている。その感情と記憶の変化が、「二号の性格」に俺とは違う部分を作り出しているのだろうか。


「じゃあ進むか」


「そうだな、早く街に言ってナンパしよう。

 パーティーメンバーに女人は必須だ」


 終わってるよこいつ。

 街中では出さない様にしよう。

 そう思いながら歩みを進めようとした、その時だった。



『だ、誰か助けてっ!!』



 そんな、高い声が聞こえ……


≪クエスト『古代より助けを呼ぶ声』を開始しますか?≫


 そんなウィンドウが、俺の眼前に出現した。

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