第4話 自分と自分の内面性は必ずしも一致しない



 第四ステージは【スライム・パーティー】というのが相手だった。初めて種族名じゃない敵だ。4体現れた人型スライムは、剣と盾、双剣、杖、弓をスライムの体で形成していた。杖の奴が他の奴等を回復し始めた時はビビったがそれ以外は並みの武術家だった。


 だが、剣と盾は、盾で味方を護る事「しか」考えてないし、双剣は側面を取る事ばかり。弓なんか突っ立って連射してくるだけだ。リズムとタイミングさえ見切れば、杖まで接近できた。そのまま杖を倒し、弓をフレアで威嚇しながら双剣をパリィして斬り倒す。愚鈍な騎士スライムは叩きつけられた剣を蹴っ飛ばしたら転んだので、そのまま倒した。弓は撃って来るタイミングが分かれば躱せる。近づいて倒した。



 第五ステージは【ボール・スライム】パラダイスだ。30体現れたボールスライムが四方八方から吹っ飛んでくる。しかも倒して追加されていき100体倒せばクリアというルールだ。パリィとステップで回避しつつ、避けられない重なり方をした時はフレアで一匹停めてその方向へ避ける形でいなす。ブロウとスラッシュで削っていき、30分程掛かったが100匹倒せた。もうこいつ等は見たくねぇ。気い張った。女神が急に言い出した「スタミナ」の概念許すまじ。先に言っといてくれ。死に掛けたっての。



 第六ステージは【スライム・ハルク】という巨人だった。全長5m近く在りそうなそれは、対人技能がほぼ無意味な相手だ。攻撃範囲は広く一歩も大きい。しかし、動きは愚鈍で隙も多い。時間を掛ければ削り切れる。口からスライムを吐き出して攻撃して来た時は焦ったが、咄嗟にフレアを当てたら燃えたので対処は案外楽だった。それと、俺はここでフレア以外のスキルを口に出さなくても発動できるようになった。



「やっと最後か」


「はい。第七ステージの相手は【ソードジェネラル・スライム】です。かつてこの星に居た剣という武器を極める事だけに特化された古代種、【極狂剣鬼スペリオル・オーガ】の動きをコピーした剣豪スライムとなります。

 身体能力やスキルこそ本物に劣りますが、所作は本物ですよ」


 相手は剣豪。

 そう聞いて胸が弾む。


 殆ど現実に近い動きができる。

 その上でスキルという力がある。

 そして、敵もそれに見合うだけの力を持っている。


「面白い」


 このゲームは事前の評価を裏切らないどころから、更新する程の神ゲーだ。


「【ソードジェネラル・スライム】は現在のカツラギ様の能力で勝つ事は不可能と言っていい相手です。

 ですので、ここまでの努力を清算しましょう」


「努力の清算?」


「カツラギ様のスキルリストを更新します」



【スラッシュ8】

【ブロウ6】

【ショット1】

【ステップ10】

【パリィ7】

【フレア7】



 そんな文字が視界に表示される。


 スキルは熟練度を溜める事で強化される。

 そして、今スキルの後ろの書かれた文字が、スキル毎の現在の熟練度スキルレベルという事らしい。


「戦闘ログを見るに、カツラギ様には戦いの経験がお有りの様ですね」


「部活だけどな」


「特に素晴らしいのは視野の広さと回避能力でしょう。

 それは回避に使われる【ステップ】が最も高いレベルに至っている事からも伺えます」


 それが俺の才能とでも言いたげに女神は語る。

 けれど違う。それは俺の弱点だ。

 実際、相手から逃げた事で俺は敗北した。

 俺はもっと攻めなきゃならない。


 もっと速く、もっと強く……


「どうかされましたか?」


 上空から降りて来たアポルが、俺の顔を心配そうに覗き込む。


「いや」


 これは、たかがゲームだ。

 現実の問題を当て嵌めるなんて馬鹿らしいよな。


「それで、熟練度を上げてくれたからもう挑んでもいいのか?」


「本来はその予定でしたが、ステップの熟練度が最大になっているので神操術スキルの進化を行います」


 そう言った瞬間、アポルが俺の手を取る。

 アポルの身体から俺に向かってエフェクトが走った。


「訓練で熟練度を最大まで上げるその手腕。

 ここまでの訓練をクリアしてきた強さ。

 その褒美として、スキルの進化を一段階加速させました。

 私も一人の観測者として貴方の訓練、いえ試練を応援すると致しましょう。

 もしも最後の試練をクリアできれば、このスキルは名実共に貴方の物です。

 ですから是非、貴方の中の英雄を見せて下さい」



≪スキル【影分身シャーヴァント】が貸与されました≫



「それは、召喚のスキルです。

 貴方の能力と兵装、記憶をコピーした味方を召喚できます。

 さぁ、来ますよ」


 アポルがまた、身を天に移す。

 赤いポリゴンが俺の前方に集まっていく。

 召喚スキルって言うならさっさと召喚しちまおう。


「「俺が二人居れば、負ける訳ねぇしな」」


 二重に声が聞こえた気がする。


「「……俺?」」


 目の前に、俺のアバターと全く同じ姿のそれが居た。

 俺を見ながら、驚いた様な表情を浮かべている。


「俺が本物」


「俺が分身」


 自分の顔に指を差して確認してみた。

 分身っていう自覚はあるのか。


 見た目も記憶も能力もコピーした存在か。

 そんな事が技術的に可能という事実に驚愕する。


「なぁ俺、もしこれで勝ったらアポルさんとデートできると思うか?」


「はぁ?」


「いや、だってクソ美人だし」


 これが……俺……?


「おっぱいもでかい」


 絶対違う……


「お前も俺だ。同じ事思っただろ?」


「お、思ってねぇよ!」


 ちょっとしか。

 つうか、思っても言うなよこいつ。


 しかし、刀の構えを見ればそれは間違いなく俺の構えだ。

 能力、外見、記憶。確かに同じなのかもしれない。

 だが、性格は絶対に同じじゃない。


「アポルさーん、これ勝ったらほっぺにチューとかってお願いしてもいいですか!?」


 そんな莫迦な事を大声で叫ぶ俺に、アポルがニコリと微笑む。


「あれは完全に惚れてる顔だな」


「どう見ても愛想笑いだろ……」


「はぁ?」


「うるせぇ二号。さっさとやるぞ」


「二号って俺の事かよ?

 じゃあお前は【逃げの桂】な」


 笑って、二号はそう言った。


 それはリアルの俺に付けられた綽名。

 所謂、蔑称だ。

 ちょこまかと逃げるから。

 決勝で飛び退きすぎて負けたから。

 そんな理由でつけられた呼び名。


 俺はその言葉を呟いた二号を睨む。


「……お前、叩き切るぞ?」


「その気持ちは俺も同じだ。

 だから今回は、「攻め勝つ」んだろ?」


 それは、俺も思っていた事だ。

 剣豪が相手というのなら、もう臆病だと侮られない様に、今度こそは親父が使う様な剛剣で勝って見せる。


 ここがゲームだからこそだ。

 この世界ですらそう在れないのなら、俺は多分一生このままだから。


「何、こっちは二人だ負けやしねぇさ」


「それフラグって言わね?」


 二号の額に汗が浮かぶ。こいつまじか。


「俺も言って気が付いたぜ一号」



 赤いポリゴンの集約が終わり、中から鬼が現れ出る。

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