第3話 訓練と書いてテストと読む


 剣。槍。斧。短剣。双剣。鞭。弓。杖。盾。

 拳銃なんて物までありやがる。


 その中に、まるで当然の様に……


「こいつに決まってるな」


「刀ですね。

 訓練の結果で着陸スタート時にボーナスが付与されます。

 訓練で稼いだEXPの二倍が付与され、この訓練で最も熟練度の上昇したスキル3つが、貴方の初期スキルとなります」


 それでは――


 アポルが言葉を残して姿を消す。

 上空の遥か彼方に、その姿を映す。

 同時に、俺の前方にポリゴンが発生した。


「ゲームスタートでございます」


 人の足掻きを楽しんでいる様な微笑みを浮かべ、女神は一拍手を鳴らす。



「ピァ……!」


 鳴き声を上げるその姿を、ポリゴンが形成し終えた。


「丸い、緑の、球?」


「【ボール・スライム】です。

 さぁ、来ますよ」


 丸いスライムが弾む。

 ドッチボールの球みたいなサイズと速度で、俺に跳ねた。


 体はちゃんと動く。

 この世界は凄い。

 数分経ってるのに違和感を一度も感じてない。


 これなら。


「避けれる!」


 体を捻って避ける。


「それ、跳ねますよ」


 直ぐに後ろを向いて視線を合わせる。

 地面に着地した瞬間、運動方向を反転。

 それを更に回避する。


「魔法以外のスキルは思念操作で起動しタイミングや角度も意思で調整できます。

 スキルの名称を意識し、直感で起動してください。

 スラッシュは剣戟。ブロウは打撃。ショットは射撃。ステップは回避。パリィは弾き。ショット以外は貴方にも使えますよ」


 横からごちゃごちゃ言いやがって。

 スライムの弾道を回避しながらでも、その透き通りの良い声は頭に残る。


 スキルを意識?

 取り合えず叫んどく。


「ブロウ!」


 スライムの跳躍に合わせて拳を突き出す。

 その瞬間、俺の拳が光りエフェクトを放ち始める。

 振り抜いた拳は予想以上にスライムの体を吹き飛ばした。


 吹っ飛んだスライムは床に転がりポリゴンに変換されていく。


「驚きました。

 ブロウを選ぶとは」


「いや、刀で斬ったら死んじまうだろ?」


「え?」


「え?」


「あぁ、いえ初めて言われた物で。

 しかし、大地に立てば貴方を殺そうと多くの敵が襲い来るでしょう。

 それを全て殺さず無力化するのは、現実的ではないかと」


 あっ。そっか。ゲームなんだこれ。

 体が思った以上に思い通り動くから。

 武道を素人に本気で使うなと、親父にずっと言われて来たから。


 体が無意識に拳を選んだ。


「やっちまっていいのか……?」


「少なくとも、相手は常に本気ですよ」


「だよな……」


 俺の手には刀が握られている。

 真剣が握られている。

 そして、それを振るっていい敵が目の前に現れる。

 これは遊びゲームだ。


「第二ステージ開始」


 ポリゴンが集まり、それが姿を現して行く。

 さっきの敵と材質は同じに見える。

 けれど形が全く違う。


「次は【スライム・ヒューマン】、人型のエネミーです」


 刀を両手で持ち、正眼に構える。

 よし、使ってみるか。


「ステップ」


 呟いた瞬間、そのスキルに可能な事が理解できる。

 このスキルを女神は回避と言ったが、これは「移動」に近い。

 それも縮地に似た高速移動。


 なら、左右でも後ろでも無くて。


「前。からのスラッシュ!」


「いいですね。

 それではステージ3です」


「因みに幾つまであるんだ?」


「ステージ7までございます。

 全てクリアすればご褒美もありますので頑張って下さい」


 次に現れたのも、やはりスライムと言える材質を持つ生物。

 今度の形も人型だ。けれど数が増えた。

 全部で10体。


「多人数が相手ですが、貴方の方が身体能力が上でしかもスキルを持っています。

 決して勝てない相手ではありませんよ」


 何言ってる。

 相手はたかが10人程度。

 こっちは真剣持ってるんだぞ。

 リアルでも負けねぇよ。


 ステップで距離を取りながら押し寄せる波をズラし、スラッシュで各個撃破していく。同時に来られたらヤバいが、バカっぽいし角度を付けて移動すれば足並みがズレて来る。


 最後に残った一匹を練習台にさせて貰おう。


「パリィとフレアの使い方を教えろ」


「パリィは相手の攻撃を弾くスキルです。

 タイミングよく丁度いい威力で相手の攻撃に武器を宛がう事ができれば、殆どの攻撃を無効化できます。

 フレアは魔法なので、スキルの様な自由度はありません。

 「フレア」と詠唱する事で掌から射程10メートルの炎を発射できます。

 本来は魔力を消費しますが、ここでは魔力は無限です」


「フレア!」


 左掌を向けて呟くと炎が発射される。

 着弾するが、即死はしていない。

 少し愚鈍になった動きで人型スライムは歩いてくる。

 けど、ずっとこれやってたら勝ちじゃね?


「フレア!」


 しかし、詠唱しても手から炎はでない。

 代わりにボフンと煙が出ただけだった。


「全てのスキルには再使用時間があります。

 フレアの再使用に必要なクールタイムは5秒です」


 なるほどな。


「ステップ」


 距離を詰める。

 人型スライムの眼前に一瞬でやって来た。


「来いよ」


 挑発する様にそう言うと、人型スライムの腕が降り上がる。

 読みやすい単純な攻撃。

 腕が落ちて来るタイミングに、空けた左腕でスキルを使う。


「ピィ!」


「パリィ」


 相手の腕に自分の腕を巻き込んで、関節をズラす。

 そうすれば攻撃の軌道が代わり、外れる。

 感覚的に多分、更にタイミングよく発動できれば攻撃その物を文字通り「弾き飛ばす」こともできそうだ。


「スラッシュ」


 首を切り割くと最後の一体もポリゴンとなって消えた。


「ステージクリア。お見事ですね」




 そのまま俺は、最終ステージまでは問題なく進んだ。

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