第2話 女神はただ、見繕い送る
ヴァーチャルリアリティ。
10年程前に民間化された、神経から伝達される電気情報で機械を操作するという技術の総称だ。
SF作家やライトノベルの影響で、ゲーム業界がそれを使ってゲーム開発を始めるのは必然だった。
昨今では殆どの新作ゲームがヴァーチャルリアリティ、VRと呼ばれるゲームジャンルとなっている。
その中でも半年ほど前に発売された『ユニバースセブン』というゲームタイトルは、今まで発売されて来たVRゲームが全て駄作だったと思わせるような完成されたクオリティを持つ「今世紀最大の神ゲー」とすら呼ばれるビックタイトルである。
ウィキ参照。
なんというか、プレイする前から俺の中でこのゲームに対する期待値がかなり上がっている訳だが、いいんだろうか。
大体こういうパターンは期待感だけ凄くて直ぐに「思ったよりつまんなくね?」となる奴ではないのだろうか。
とは言え、俺が最後にゲームを触ったのは6年以上前だ。
小学生の時に母親がくれた携帯ゲーム一種だけ。
それが俺のゲーム歴の全てと言える。
VRの存在は知っているが、友達の家で少しだけ触った事がある程度。
「剣道ばっかだったしな……」
そう呟くと、布団の上に置いていたヘルメット型のVRデバイスが、インストール完了を示す音を鳴らした。
デバイスに必要条項は全て記入してある。
持病・恐怖症の有無、年齢や身長体重、運動歴等の身体データ、他にも色々と記入させられた。
これらはプレイヤーがゲームを行う際のフィルター機能に関係するらしい。
例えば、18歳未満かどうかでキャラの肌の露出度などが変わるとか。
先端恐怖症の人はそういう視覚情報にポリゴン処理がされるとか。
まぁ、俺には殆ど関係なさそうな機能だ。
一応ユニバースセブンは16才以上向けのゲームらしいが、それ以下のプレイが禁止という訳ではないらしい。
トイレに行き。
枕元に水を置き。
エアコンを自動設定にする。
これで準備完了だ。
ヘッドギアを着け、布団に寝転がった。
この時、仰向けではなく横向きになる事が疲れないコツらしい。
「ユニバースセブン」
デバイスのメニュー操作は音声認識だ。
神経接続してる筈だが、こういう所はアナログらしい。
ヘッドセットに付属するディスプレイが、ユニバースセブンのタイトルとパッケージデザインを見せて来る。
それを見て起動ワードを呟く。
「スタート」
睡魔の様な感覚と共に、俺の意識が機械の中へ落ちて行った。
◆
目を開くとそこは、真っ白な世界。
目の前に「俺」とその横に並ぶ女が居る。
違うな。あれは鏡だ。
鏡と女が並んでいる。
紫とピンクの髪を有する女。
所々に散りばめられた白い髪模様は、その長髪を銀河の様に思わせる。
空の様な青い瞳を持ち、整った顔立ちを有するそれは俺に話しかけて来た。
「この世界の女神アポルと申します。
この世界で名乗りたい、貴方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
AI……だよな……?
あまりにも自然な所作をする相手に少し戸惑う。
余りに人間離れした容姿だから直ぐに理解できたけど、動きは本物の人間と殆ど変わらなない。
寧ろ完璧すぎる事が、違和感に思えるほどに。
「名前ね」
キャラクターメイクって言葉くらいは俺も分かる。
ここはそういう場所、と言った所か。
「カツラギで」
苗字そのままの名前だ。
まぁ、たまにある苗字だしバレる心配もそんなに無いだろ。
「カツラギ様。
それでは貴方の見た目を決定しましょう。
体格や身長は変えない方がよろしいと思われますが、それ以外の要望があれば遠慮なく仰ってください」
VRと現実との体格を変えると、ログインログアウトした時に違和感を感じる原因になるらしい。
そのズレは現実にも作用する事があるらしく(コケるとか)一般的にはVRでも体格は変えない方が良いのだとか。
「体格はこのままでいい」
大きな体はそれだけで強い。
けど、今更そうなりたいとは思わない。
それにこれは所詮ゲームだ。
体格で強さはそんなに変わらないだろう。
「髪型と髪色を変えてくれ。
ちょっと癖付けて、暗い緑っぽい感じで」
「かしこまりました」
そう言うと、鏡の中の俺の姿が変化する。
わりと理想通りだったのでこれでいい。
でも、顔つきや目つきがそのままだな。
「ちょっと眉毛とか目元とか整えて」
そんなアバウトな要望にも応えてくれるのだから、このゲームのAIは優秀という前情報に嘘は無さそうだ。
「この様な感じでよろしいですか?」
目つきが柔らかくなって眉も細くなった。
ちょっと美形になってる。
俺の言った要望で不自然にならない様、勝手に調整しているのだろう。
まぁ、面が良くて文句を言うのも可笑しな話。
「これでいい」
「
鏡が消える。
前髪を見ると緑になってた。
って事は、既に見た目は反映されてるっぽいな。
「それでは、初期ステータスを決定させていただこうと思います」
「何を決めるんだ?」
「主には……
ジョブ。属性。初期スキル。初期装備。
ですね」
「四つか、直ぐに決まりそうだな」
と言った瞬間現れたUIの総量は、俺の予想を遥かに超えていた。
「は?」
選べる量は百じゃ利かない。
千を優に超える選択肢がある様に見える。
最も多いのは属性だ。
火、炎、水、風、土、雷、氷、闇、光、草、花、天、夜、月、雪、石、岩、星、陽、煙、海、陸、死、生、聖、雲、引、斥、毒、痺、葉、血、見、鉄、雨、桜、時、木……etc.
「存在する全ての漢字がある気がするんだが……」
「はい」
はい、じゃねぇよ。
「これから一個選べってのか?」
引き攣った顔をしている事を自覚できるような面持ちでそう言うと、アポルは微笑む。
「申し訳ありません、少し悪戯をしました。
貴方にはこれから訓練を受けて頂きます。
その戦闘内容を私が解析し、適性の高いジョブ、属性、スキル、装備を提案させていただき、その中からカツラギ様が再度選択するという形で如何でしょう?」
なるほど、
≪初級スキル【スラッシュ】【ブロウ】【ショット】【ステップ】【パリィ】【フレア】が貸与されます≫
そのアナウンスと同時に何かが現れる。
鏡が消失した時とは逆。
立てかけられた数多の武器が出現した。
「自由な武器をお選びください。
カツラギ様にはこれから、この世界における『戦闘』を体験して頂きます」
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