13

 結局購入したのは、なんの変哲もない乳白色の円形プレートだった。和食器の店からUターンして戻った北欧食器の店で、ふうりはそれを二枚取るとわたしに相談もなく店員に渡してしまった。

「よかったの?」

 あんなので、とは付け加えないで訊ねると、ふうりは疲れ果てた顔で力なく首肯し、

「結局バニラアイスが一番なんだよ」

 と、またしてもわけのわからない返答をして、両目を深く瞑り、わたしの肩に額を押し当てる。

「まほろもあれなら文句の付けようもないでしょう?」

 と小声で呟くふうりに、わたしは苦笑しながら

「まあ、そうだね」

 と労うように告げると、ふうりは大きく息を吐いてさらにもたれかかってくる。買い物って楽しいけど、その分本当に疲れるよなぁ、としみじみ思ううち、わたしの方もふうりに負けず劣らず疲れているのに気付く。

 フロアの隅に喫茶店があったことをふと思い出した。「お茶する?」とふうりの方を見ると、ふうりはぱっと面を上げ、「さんせーい」と駄々っ子のように笑う。ふうりの髪がわたしの首筋を掠めて、二人の身体はゆっくりと離れてゆく。

 あのあと、ふうりはひと月経たないうちに男と別れた。五年近く付き合った相手なのに、なぜか二人ともあっさりと別れを受け入れた。わたしの知らないなにかが二人の間にあったはずだった。それが失われた時、わたしはかたちというものの脆さを知った。かたちあるものはかたちを留める限り強固だが、一度崩れれば跡形なく消えてしまうものと知った。それはわたしもまた恋というかたちを失ったから知れたことだった。例えどんなにひとりよがりだとして、それもまた現実だった。

 社会人になったふうりはじき三度目の恋を始めたが、一年くらいして相手にこっぴどく振られ終わった。もう三十歳になるまで恋なんてしないもんね、と強気に出たふうりはわたしとの同居を提案し、わたしもそろそろ実家を離れたかったので了承した。男なんてもううんざりだと、ふうりは最近酔うと口にするが、それでも会社であったことを話す度ふうりの目が社内外の男性に自然と向けられているだろうことはわざわざ指摘するまでもないほど明白だった。ふうりが次の恋に向かう季節もすぐだろうと、わたしは諦めとも潔さとも取れない凪いだ感情のまま、それについて悩みもせずただ日々を保留している。



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