北欧食器のプレートはどれもこれもかわいらしく、いくつか候補は絞れたものの、わたしたちは未だにどれかひとつに決めきれないまま、しだいにふうりの興味は壁の向こうに見え隠れする和食器の方へと傾き始めたらしい。ふうりの瞳の動きからわたしはそれだけのことを読み取れるのに、どうしてあの時あんなにも思い抱いていたものを欠片も伝えられないまま、日々は過ぎ去っていったのだろう。わたしは今も理由を知らない。しかし過ぎ去ってなお感情はありのまま思い起こすことができるのは、わたしが現実として確かにあの日々を歩んできたからなのだろう。その時間の分だけ堆積したものが、それから月日を重ねて少しずつ削られて、わずかに残った砂の山は未だわたしの中に存在し、しかしそれは燻るでもなく風化するでもなく、今や立派に地層と化して現在のわたしを支えるのだった。

「一旦あっち見てみようか」

 言葉はすらりと放たれて、振り返ったふうりは上機嫌に「うん」と微笑む。わたしは再びふうりの手を取るようにして、和食器の方向へ地に着いた足を運んでゆく。



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