9
北欧食器のプレートはどれもこれもかわいらしく、いくつか候補は絞れたものの、わたしたちは未だにどれかひとつに決めきれないまま、しだいにふうりの興味は壁の向こうに見え隠れする和食器の方へと傾き始めたらしい。ふうりの瞳の動きからわたしはそれだけのことを読み取れるのに、どうしてあの時あんなにも思い抱いていたものを欠片も伝えられないまま、日々は過ぎ去っていったのだろう。わたしは今も理由を知らない。しかし過ぎ去ってなお感情はありのまま思い起こすことができるのは、わたしが現実として確かにあの日々を歩んできたからなのだろう。その時間の分だけ堆積したものが、それから月日を重ねて少しずつ削られて、わずかに残った砂の山は未だわたしの中に存在し、しかしそれは燻るでもなく風化するでもなく、今や立派に地層と化して現在のわたしを支えるのだった。
「一旦あっち見てみようか」
言葉はすらりと放たれて、振り返ったふうりは上機嫌に「うん」と微笑む。わたしは再びふうりの手を取るようにして、和食器の方向へ地に着いた足を運んでゆく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。