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考えたい

404 not found at the silent Christmas

 本日十二月二十四日、俗にいうクリスマスイブである。世間様々では子供はプレゼントと美味いケーキを期待して騒ぎ、親は財布を痛めつつも笑顔で準備する。又、クリぼっちで居酒屋や家で飲んだっくれている者も居る。敬虔なキリシタンならば一日中教会か礼拝部屋に籠って唯、イエスの誕生を祝い奉る。或いは恋人同士、キャッキャウフフな時間を過ごす人も無きにしも非ず。

 そんな中、そういった世間の動きと無縁な場所が実際に在るにはあるのだ。その場所は何処かというと、山の上のとある陸自のレーダーサイトであった。といってもこの時間に勤務が当たったありとあらゆる労働者も御多分に漏れずであるが。

 其の陸自のレーダーサイトには第一師団第十八対空警備中隊二百名が駐屯し、その内訳は通信科八十名、情報科三十名、施設科三十名、需品科十名、武器科十名、輸送科十名、警務科十名、会計科十名、衛生科十名。休日は各科人数が五分の一程度となる。

 基地内に設置された見晴らしのいいベンチに腰掛けながら熱い缶コーヒーを啜っている二人の自衛官、一人は和泉猛(いずみたける)一等陸曹二十三歳通信科所属、もう一人は伊勢彦弥(いせひこや)陸曹長二十三歳情報科所属。二人は階級こそ違えど同い年なので休憩中や休日は基本タメである。

「なあ、寂しいもんだな。」口火を切ったのは和泉一曹である。

「何がだよ。」そう言って伊勢曹長は煙草に火をつけた。

「いやあ、世間様じゃあ今頃クリスマスとぞ申してキャッキャウフフな時を過ごしているのだろうが今の俺たちはどうだ、死んだ魚の眼をしてスパスパ煙草をふかしたり熱いブラックの缶をちびちび飲んだりしている。普段と変わりもしねえ。」

 伊勢曹長の咥える煙草からまっすぐに煙が天高く上っていくのを横眼に見ながら和泉一曹は愚痴る。伊勢曹長は煙草を人差し指と中指で摘まみ乍ら気怠そうに愚痴る。

「しゃーねえよ。今日の勤務は独身優先だったからなあ。中隊長の計らいもなかなか粋なものだが、俺たちはまだマシな方だよ。海自に至っては艦の中で酒も飲めやせん。俺たちはこの後酒呑めるもんだし。」

 ふうーっと吐いたニコチン臭い息が周囲の空気に強烈な匂いを振りまきつつも同化して消える。

「でも寂しいっすね。」「何言ってんだ、集団生活しとるくせに。」「くそ、何であいつらには可愛い彼女がいるんですかねえ。家で待ってくれる嫁がいるんですかねえ。」「そっちの話か。」「だって憧れじゃないすか、家に帰ると可愛い女の子が労ってくれる。伊勢曹長だって一オタクとしてグッとくるものがあるでしょう?」「お前女子に夢見すぎだぞ。まあ、こんなヤニカス男にそもそも惚れる女子なんて現代にいるわけでもねえ。二次元を愛でるだけで十分すぎる。」

 そう言って伊勢曹長は短くなった煙草を携帯灰皿に押し付ける。じゅう、と火の消える音がした。

「それにしても伊勢曹長は枯れてますねえ。こう、何というか達観した感じが。」

 伊勢曹長のハイライトのない目を和泉一曹は見つめて言う。それはある意味常に伊勢曹長に抱いていたある種の違和感であった。

「まあ嫌な思い出も多いし天涯孤独だし。嫌でも小さい時から色々悟ってきた。特にこのクリスマスは…………、いや、この話はよそう。辛気臭すぎる。」

 また新しい煙草に火をつけて、美味いのか美味くないのか分からん顔をして黙々と吹かす。

「ヤな予感。」と、和泉一曹と温くなった缶コーヒーの最後の一滴までもを飲み干して神妙な貌をする。

「何だ?彼女できないとか、このままだと来世は魔法使いになることとかか?」

「いや、何だろうな、武士の本能が疼くとでもいうべきか…………」

 そう言った時、警務隊の土佐三尉が放送機で怒鳴るように言う。

「情報科伊勢曹長、面会だ。何かようわからんが別嬪さんが面会に来とるぞ、羨ましいんじゃあぁぁぁぁぁぁ!早う正門に来い、ヤニカスハイライトなしッ!」

 これが防大次席で卒業したエリートだとは認めたくないような放送をぶちかまして伊勢曹長が呼ばれた。ちなみにヤニカスハイライトなしは彼の通信科時代のコールサインでもある。

「ちょっと行ってくるわ。」

 灰皿に煙草を押し付け少し歩いた所で「あっ、そうだ。コレ、メリークリスマス。」そう言ってぽおいと何かを和泉一曹に投げた。

 「ん?お守り?」と和泉一曹が疑問に思った時には既に伊勢曹長は眼界から消え失せていた。



 それ以来、その基地で伊勢曹長を見た者も居なく、データーベースから彼の情報が全て削除されていたことに気付いたのは和泉一曹のみであった。


 その先は特定秘密に該当し、現場の一介の自衛官にはアクセス権限が付与されていない。

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