第15話

 カーテンの隙間から日差しが私の目を刺してきて目を覚ます。一人用のベッドなのにもかかわらず、横に白石さんが私を壁に追いやって占領していた。


 確か、白石さんは使われなくなった姉の部屋にあるベッドで寝ていたはずでは……


 狭くて起き上がれず、白石さんを見つめながら昨日の記憶を辿っていると「ここどこ……?」


 私を見るなり目を大きく見開いてベッドから飛び上がるように離れた。


「酷いな~そんな反応されたら傷ついちゃうよ。それに私のベッドに入ってきたのは白石さんだよ?」

「いやいや、そんなわけ」

 懇切丁寧に説明する私を見ながら意味がわからないと言った顔をしてくる。


「あっ……」

 私がトリガーとなる言葉を発すると、さっきまでの反応が嘘かのように変わった。


「ごめんなさい!私から布団に潜り込んだのに」

 私の肩を掴みながら眼に涙をためて謝ってきた。


「うん、大丈夫だから……」

 予想以上の反応をされて、少し驚いたけど、ちゃんと暗示が続いてて安心した。


「ほら、お腹空いたでしょ?朝御飯食べよ」

「うん」


 今日は日曜日だから外に行っても人が多くてしんどいだけだしね、今日は一日中家に籠るか。

「ねえ、今日は家でだらだらしててもいい?」

「美咲がそうしたいならそれで良いよ」



 適当に焼いた食パンにバターを塗りながら白石さんを見る。


 昨日みたにドキドキして心臓がうるさくなることもなければ、顔をみて心が乱れることもない。

「私の顔ばっかり視てどうしたの?バターもうナイフについてないよ?」

「あ、何でもないんだ。教えてくれてありがとう」

 ナイフについていたバターが無くなったことにすら気づかずに、白石さんの顔を集中して視ていたこと事実に羞恥を覚える。


 すぐに切り替えて、これから家でやることの計画を建てる。

 バターつけ過ぎたな……。




「ゲームしない?」

「昨日も散々したじゃないの」

「リベンジマッチだよリベンジマッチ!」

そう言いながらゲーム機を起動してコントローラーを渡す。


「昨日の今日で私に勝てるほど強くなったの?」

「こっちには秘策があるんだ」

 なんだかんだコントローラーを受け取ってくれた白石さんをソファーに座らせる。


「美咲は座らないの?」

きょとんとした顔で私を見つめてくる。


「白石さん……私の眼を視て何か感じる?」

「眼?何を急に」

「ほら見てみて」

 意味がわからないといった様子の白石さんの両頬を両手で抑えて私に顔を向けさせる。


「どう?何か感じる?」

「……何も……感じないって」

「そうかな、息が荒いけど?」

 前に掛けた堕ちる暗示と襲いたくなる暗示が白石さんの息遣いを荒くしてしまっている様子だった。


「な、そんなに息、荒くないし!」

「それじゃあ目を瞑ってみて」

 言われた通り目を瞑り、何か身構えた様に口を固く縛っている。

そんな白石さんの耳元に口を寄せて囁く。

「想像したでしょ、私とキスすることやその先を」

「んっううん」


 必死に否定する白石さんの首に右手、腰に左手を移動させてもう一度質問する。

「手で少し触れただけでびくびく震わせて、やっぱり想像してた?」

「違……う……」

「そう……このまま私が白石さんにキスしないと、ずっとこの煩わしい感覚で頭が働かなくなっちゃうよ……それでも良いなら認めなきゃ良いわ」


 そういうとやっと目を開けて

「想像……してました……」と求める顔で懇願してきた。


「へーそうなんだ……あっそうだゲームに勝ったらキスしてあげても良いよ」

「わかった!すぐにやろう!」

 考える素振りを全く見せず、即答して条件を受け入れた。




「う……んっ」

 だいぶ頭が働いていないのか、ゲームは私の連戦連勝で清々しいほど勝ち続けている。


 作戦は大成功と言えるだろう。

 私が負けそうになるたびに耳元で「勝った先の事、想像しちゃって息荒いよ」と言うと白石さんが手元を狂わせて私が勝利する。

 そのせいで白石さんの嬌声に近い吐息がどんどん多くなっている。


「まさか……はぁ……はぁ……これが目的……だったの?」

「ふふ、まずは息整えたら?」

「卑怯……よ……そんなの……勝てるわけ……無いじゃない」

 目に涙を溜めて物欲しそうな顔をしながら私を睨み付けている。

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