第14話
湯船に浸かって「ふ~」と間抜けな声が出てしまった。
今日の出来事を振り返るとそんな声が出てしまうのも仕方の無いことだ。ショッピングモールで何時間も歩き回ったから暖かい湯船が疲労の溜まった足に沁みる。
少し窓を開けて涼しい風を入れる。
「入るねー」
リラックスしていた私の風呂場にガチャとドアの開く音と共に白石さんが入ってきた。
「ちょっと!?まだ返事してない!」
「うん?シャンプーこれね」
私の話しを全く聞いていないのか?シャンプーを指差して確認するとシャワーを浴びて髪を濡らした。
忘れてたけど私、白石さんが好きになる催眠術に掛かってたんだった。白石さんの裸体と濡れた髪に、視線が吸い込まれて離れなくなっている。
「私、あがるから」
「ダメ」
このままじゃヤバい。逃げようと湯船から立ち上がると白石さんが此方に向いて立ち上がってきた。
髪から滴る水滴が落ちると同時に私の目線が下の方に向かってしまった。
誤魔化すように「わかった、わかったから」と言って湯船に再び浸かる。
このままでは心臓が持たない。そうだ目を瞑ってれば、自分で制御できない目線も制御しようと苦労することはない。
目を瞑る。シャワーの音と窓から来る涼しい風が、私の心を落ち着かせる。
いつの間にかシャワーの音は止んでいて、ポチャンという音が聴こえた後に「湯船で寝ると危ないよ」と声を掛けられた。
目を開けると目の前で白石さんが湯船に浸かっていた。水滴のついた綺麗な肌に、肩までかかっていた紫黒色の髪が水面で広がっている。
私がその魅惑的な姿に目を奪われていると、白石さんが私の鼻先が当たりそうな距離にまで近づいて「反応が無いけど大丈夫?」と言ってきた。
落ち着け、私も白石さんもお互いが好きになる催眠術に掛かってるんだ。
よくよく考えれたら何で二人して同じような催眠術掛けちゃったのよ……最悪だよ過去の私。
今更何で後悔してんだろ……
「大丈夫だよ。それよりのぼせそうだから上がっていい?」
「一緒に上がる」
「オッケ……」
白石さんって好きな人にはこんな距離の詰め方するのか。この先、本当の意味で好きな人が出てきたら相手の人はビックリするだろうな。
そんな呑気なことを考えながらバスタオルを取って身体を拭く。
洗面台に見知らぬバックが置かれていたから「これは何?」と聞いてみたら化粧品とドライヤーとかが入っているらしい。なるほど、あの魅力的な肌と髪はこんな努力から来ていたのか。
と、自分の意識の低さをさりげなく見せつけられた。
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