第12話

 「はい!この手を見て」

白石さんの指示に従い私の前に出された手の平を見る。


「この手が近づくにつれて身体中から力が抜けていきます」

 

 そう言うと私の前にあった手がどんどん近づいてきている。


 私は演技が下手だから予め自己暗示で白石さんの催眠術に簡単に掛かるようにしてるけど……緊張しているのか手が震えまくってるし、声も心なしか高くなっている。


 それでも私の自己暗示が優秀だから彼女の暗示に私の身体も反応し始めた。


 催眠誘導をしている様子だけれど……私には良くわからない。


 これが催眠術を掛けられるってことかと、新しい感覚に少し新鮮味を感じた。




 目を開けると鼻先が当たりそうな距離に白石さんの顔があったことに驚き、すぐに身を後ろに引こうとするけれどソファーがあって上手く距離を開けられなかった。


 落ち着いて、もう一度彼女の顔を視る。


 混乱しているのか顔が紅潮して目が泳いでいる。


 私に掛けた催眠術が白石さんにも掛かるようになっているから混乱しているのだろう。


 そんな呑気なことを考えていると自分の身体にある違和感に気づいた。


 白石さんの目を逸らすことができなくて、身体中が熱くなって心臓の鼓動が頭に響いている。


 本当にどんな催眠術を掛けたんだ?


「美咲?私に何かした?」

「…………うん」

「なにしたの?」

「私に掛けた暗示が白石さんにも掛かるように……」

「マジか……」


 白石さんが目を伏せて考える素振りを数秒間みせた後、頬を紅潮させながら「相手への好意が百倍になる暗示を……」


「へ、へー」

 どう反応するのが正解なんだ?


 その暗示に掛かっているからか頭が回らず、良い返事が思い浮かばない。


「一旦解いてくれないかな?」

「わかった……私の目を視て」


 私は指示の通り白石さんの目を視て……


「……2……1はい!おはようー目は覚めた?」

「まあ少しぼーとするんだけど……まだ催眠術掛けてるでしょ?」

「えぇ!何でわかるの!」

「そりゃ頭にまだモヤみたいな違和感があるからね……」

「どうやって気付かれないようにするの?」

「そりゃ私が白石さんにやったみたいに違和感を持たない暗示を掛けないと」

「それじゃ

「うん……」

「ちゃんと私の催眠術に掛かってるね。まさか美咲が自己暗示までできるなんて予想してなかったよ。しかも、今までずっと私が催眠術に掛かってたなんて全然気付かなかった」


 良いことを思い付いたと言わんばかりの顔を一瞬浮かべると「私に催眠術を教えて」と私にお願いしてきた。

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