第11話

 ショッピングモールについて、すぐに三階の飲食街には向かわずに入ってすぐ横の雑貨屋に入る。


「こういうところ入るんだ」

「ちょっと買いたい物ができてね」

失礼なことを言われた気がするけど気にせずにお目当ての物を買うことにする。


「香水ってつけてる?」

「一応軽めに」

 首元まで近づいて匂いを確かめるとカモミールのような香りがしてきた。


「匂うね」

「言い方」

軽く笑い合って一度商品棚を見る。高いなと思いつつも事前に買うと決めていた棚にある瓶を一つ取ってレジに向かう。


 土曜日の夜ということもあってレジに並ぶ羽目になったから、白石さんには店の外で待って貰うことにした。

 

 私が雑貨屋で買い物を終えて店を出ると白石さんは、向かい側の斜め右にある服屋でジャケットを難しい顔で見ていた。


「観ていくの?」

「美咲の上着ダサいから選んであげようかなって」

「ありがたいけど服を買うまでの金銭的余裕は無いよ?」

「大丈夫大丈夫、私が出してあげるから。ほらこっち向いて」


 言われた通り白石さんの方を向く。黒くて薄いジャケットと白くて薄いジャケットを体に当てられる。

 

 あと、ナチュラルに下の名前で呼ばれた……


「これ革っぽくない?高くないの?」

「気にしない気にしない」


 服に向かって喋っている……これは自分の世界に入っているな。説得するのは諦めて満足するまで付き合うことにした。




 結局説得した方が良かったと後悔し始めた。スマホを開くと八時を回ろうとしていて更に後悔の念が私を遅い始めた。


 到着した時間は何となくの記憶だが六時だった。そこ情報を踏まえると二時間は確実に白石さんの買い物に付き合っている。


「ねえ、もう八時だし飲食店閉まっちゃうよ?」

 スマホの時計を見せて教えると、次の店に向かっていた白石さんの足が止まる。


「ごめん!すぐに食べに行こうか」

「うん、それは大丈夫なんだけど……お金はちゃんとある?」

 私が指摘すると白石さんは青ざめた顔を私に向けたまま足を止めて、すぐに財布を取り出して中身を確認している。


「どう?」

「あはは……立て替えてくれない?学校で返すからさ……」

「奢りで良いよ。服、買って貰った上に選んでくれたし」

「本当?ありがとう美咲!」

「う、うん」


 また下の名前で呼ばれた……しかも笑顔が可愛い過ぎるし、今さら指摘できない……。

 

 それから私は安くて量が良さそうな和風定食を食べたけれど、白石さんが目の前でラーメンを食べていたせいでラーメンを注文しておけば良かったと少し後悔した。



 夕飯を食べたあと、スーパーに寄ってから自宅に帰ったからか、荷物が重くて手が赤くなっていた。


「お風呂ってお湯浸かる派?」

「ええ、浸かけど」

「それじゃお湯はってくるねー」


 そう宣言したあと玄関から冷蔵庫に移動してチョコレートを補充し終え、風呂場の掃除をして、お湯が貯まるまでの間はソファーで横になることにした。


「だらしないね」

「誰かさんのせいで何時間も歩き続ける羽目になったからね」

「確かにインドア派にはキツいかもね」

「わかってるじゃん」

 

 白石さんが私に微笑を浮かべながら罵ってソファーの前に座っていたから、白石さんの頭に手を乗せて「私の部屋にある本取ってきてくれない?」と頼み事をしてみる。


「何の本?」

「催眠術かなー」

「ねえ、持ってくるからさ……私にも掛けさせてよ」

「えーどうして?」

「私だけ掛かってるのって不公平じゃん」

「確かにね……」


 ソファーから降りて白石さんの隣に移動する。両手を白石さんの頬からうなじに滑り込ませながら、両足に股がる。


「ねえ、私の目を見て答えてね?私に催眠術を掛けて何をしたいの?」

「えっと……それは……」

「目を逸らさないで、ちゃんと答えて」


 顔を近づけてもう一度質問する。あたふたした様子で「あの、えっと、」と何か考えているようだ。


「もう目が話せない催眠に掛かったよ」

「あ、ちょっと!」

「それじゃ前と同じように落ちようか」

「あっ」

「思い出した?それじゃ


 完全に落ちた訳では無いけれど、ぼーとした目に、私が支えないと後ろに倒れちゃいそうな頭、半開きの口を数秒間、視界に納めて堪能する。


 気持ちを切り替えて、白石さんが私にどんな催眠術を掛けようとしていたのか?実際気になってるし彼女自身で再現して貰うことにする。





「わかったわかった掛けて良いから」

「本当!すぐ取ってくるね!」

私が肯定の意思を伝えると顔を明るくさせてニコニコしながらリビングをあとにしていった。


 本当にどんな催眠術を掛ける気なんだ?

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