第10話
夏菜への催眠誘導は何故か全て失敗に終わった。
私がすぐそばにいるのもあるけれど、心臓の鼓動が速く鳴って私にまで聞こえていた程に緊張していたらしい。
つまり、まったくリラックスできていなくて、一応安眠誘導という体でやっているのにリラックスする気が無いのか、「うん~」と上ずったような高い声をあげる有り様で、私の話をまったく聞いてなかった。
これでは今の私の実力では催眠術に掛けることはできなくて、私は満足できなかったけど……本人は満足したようで「ありがとう」と惚け顔で言ってきたから、少し複雑な気分になった。
一応この後、冷蔵庫に入っていたクルミチョコを食べながらゲームをして家に返したけど、夏菜は最後まで幸せそうな顔をしていた。
土曜日の今日は白石さんが泊まりに来ることになっている。
私は彼女が着くまでの間に、図書館で借りてきた本を改めて読んで、昨日の失敗の原因と対策方法を考えておくことにした。
これまでにも既に三回は読み返してはいるけれど、未だに新しい知識や技術、見解を見つけることがあり、私の理解力の無さと、この本の難しさと奥深さを痛感している。
そうして本の内容を理解しようと頭をフルに回転させているとピンポンとインターホンの音が一階から聞こえてきた。
本を鞄に戻し、画面を確認するために階段を降りてリビングに設置されているインターホンの画面を見る。
白石さんの姿を確認して、玄関口まで小走りで向かいドアを開ける。
笑顔で「いらっしゃい」と告げて手招きをする。それに白石さんは「ええ」と無表情に返して私の横を素通りして家に入っていった。
機嫌が悪そうな顔なのはいつものことだから気にしないで、リビングに案内して白石さんの荷物をソファーの横に置かせて、飲み物を用意するために冷蔵庫に向かう。
これからすぐに催眠術を掛けようかとも思ったけど、よく考えたら白石さんのことを何も知らないなと改めて思い、すぐに催眠術を掛けるのは止めといて雑談でもして、親睦を深めよう。
ソファーに座る白石さんを視ながらコップにお茶を淹れる。
お茶とホワイトチョコをソファーの前にある机に置いて、テレビ画面をつけてゲームを起動する。
「ゲームする?」笑顔に問いかけるが相変わらず笑顔を見せること無く「することがないなら」と白石さんに突き出していたコントローラーはすぐに奪われた。
私はゲームが下手なわけでは無いし、なんなら種類によっては得意で常に勝ち続けるゲームがあるくらいだ。
けど、白石さんの風貌からは予想もできない程に立ち回りが上手くて私が勝てるゲームはレースゲームやパズルゲームくらいしか無かったのは驚いた。
「あー!ちょっとゲーム上手すぎない?!」
「あなたがワンパターンで攻略しやすいだけよ」
さっきからずっとニヤニヤしていてムカつくけど何度再戦を挑んでも一度も勝てていないから、このニヤニヤ顔を消すことができずにいる。レトロゲーやRTSなどゲームを変えて挑戦し続けていたら気づけば夕方になっていた。
流石にずっとゲームをしているとお腹が空いてきてしまった。
「夕飯どうするの?」と私が今から相談しようとしていたことを言われた。「白石さんって料理できました?」と謎に下手に聞いてみる。
「何?改まって?あまり得意じゃ無いけど……」
「OKー私も得意じゃないし食べに行こうか」
ソファーから立ち上がり「上着取ってくる」と告げてから二階に上がって白色の薄い上着のポケットに財布とスマホを突っ込む。
一階に降りてリビングに向かって「じゃあ行こうか」と声をかけてドアを開ける。
準備ができていたようで、ドアのすぐそばに白色の小さい布鞄を持った白石さんが居た。
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