第2話

私、黒木美咲みさきは尾行、あるいはストーカーのようなことをしていた。


仕方ない、興味が湧いてしまった。この好奇心と知識欲をすぐに解消するため


白石麗奈れながこのイメージとは程遠い、図書館で、いったい何をするのか?


今それを確認しようとしている。


さっきまで私が座っていた読書コーナーを通り抜け、天井に届きそうな本棚を一つ、また一つ抜けたところで…


いた、本棚の一つのコーナーを凝視している。


何を探しているのだろう?


ここからじゃ良く見えない、そもそも私の視力は裸眼で0.3だしメガネは最近調節しなければならないほど見えにくくなっていた。


メガネを買い換えておくんだったと後悔しても遅い。


私は目を凝らしながら、白石さんが手に取った本のタイトルと思われる影を凝視する。


「___療法」そこまで読めたところで彼女がこちらを向いた。


ぎりぎりのタイミングで目を凝らすことをやめ、たまたま通りかかった感をだして通りすぎようとして


「まって」

今一番聞きたくないセリフが聞こえてきた。


「私?」

「そう」

最悪なことに呼び止められてしまったようだ。

半ば諦めて彼女に近いていくと


「このことは黙ってて」

何を言っているのか?と頭に浮かぶと同時に


「私がここで、この本を読んでいたことは学校では言わないで」

そう言って手に持っていた本を本棚に戻し、さっきまで手元にあった本を指差した。


制服を見て私が同じ学校の生徒だと理解してか、彼女は少し焦ったような表情をみせていた。


私は閃いてしまった。


私が抱く彼女への好奇心を満たす方法を…


「大丈夫、私が今から言うことをきいてくれたら記憶から消して、クラスにもばらさない」


そういうと彼女は焦りの表情から不安の表情へと変わっていった。


「いうことって?」

不安と焦りに満ちた顔で返されたので、私が悪者みたいになっていることに不満を感じつつ


「簡単なことだよ?高校卒業まで、私が呼ぶときに私の家に来て、私の知りたいことを教えてくれればいいから」


「知りたいことを?」


「そうだよ?例えば勉強でわからないところを教えたりね。例えば、彼氏はいるのかを答えるぐらいの簡単なこと」

高校卒業までというのが気に食わなかったのか不服そうな顔をしながらも安堵の表情が混じっているようにも見える。


「じゃ連絡先交換しとこ、明日呼ぶから」

そういうと一瞬にして無言でQRコードを出してきて、私は慌てて出されたQRコードを読み取った。


交換したことを確認すると私の居る反対側を振り向き、歩くよりも少し早いスピードで、どこかへ行ってしまった。


今、一瞬にして居なくなった白石さんが、さっきまで目の前に立っていた本棚に近づき彼女が持っていた本を探す。


本当は何の本を読んでいるか見えていなかったのだが、勝手に勘違いしてくれたおかげで私は彼女への好奇心を満たすことができそうだ。


たしか白色が基調で黒色の大きな文字の最後は「療法」だったね。


わずかな情報から彼女がさっきまで読んでいた本を探す。


無駄に高く首が痛くなりそうな上段からはみずに、下段から順に確認していく。


「あった」

確かに彼女が持っている本だ。おぼろげな記憶の映像にこの本を照らし合わせる。


もっと知りたいことが増えた。


確かに焦るのもわかるが、この本でここまで焦るか?彼女はどんな理由でこの本を?


少し楽しいことを思いついてテンションが上がる。


この本を借りることにした。ついでに「心の学問全集」も。


借りたものをバッグに入れて図書館の出入口に戻ってくると


「美咲おそーい」

「ごめんごめん」

と適当に返して帰ろうと足を一歩踏み入れたところで


「白石さんが不機嫌そうな顔で出ていったけど何でかわかる?」

ドキッときたが焦る必要はなさそうだ。


よく顔をみると本当に不思議そうな顔をしていて、私が不機嫌にさせたとは一ミリも考えていないだろう。


東口から帰って行ったのは予想外だったけど、これならどうにかなりそうだ。


「さぁなんだろうね?私もわからないや」

嘘をつくのは心苦しいが、


私が白石さんを半ば脅迫して家にくる約束をした。


そんなことを口にすれば誤解を産むことは必然だ。


誤解でもないけれど。


本当のところは、質問責めされるのが嫌だからなのが一番の理由なんだけどね。


「ところで何の本を借りたの?」

答えが得られないと察したのか、話題を私の借りた本に移した。


「さっき読んでた本だよ」

「それって、心の何とかってやつ?」

「心の学問全集ね」

「それだけ?」

まさか二つ本を借りたことがバレているのか…


「それだけだけど、なんで?」

「意外と長かったから」

帰ってくるのが遅かったから疑っていたのか、


幸い遅かったことを白石さんに繋げることは無さそうなので、少し嘘をつくことにした。


「どうせなら他の本も借りようかなと思ったけど良いのがなかったの」


ヤバい

少し、いや、だいぶ早口で言ってしまった。嘘へたかよ私。


「ふーん、そうだったんだ」

私疑ってますよ、という顔をしている。


これは結局質問責め確定だ。


この先を乗り切るために、白石さんの件を隠し通す覚悟をを決めて無言で足を進めた。

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