第5話 同居二日目 就活
翌朝起きると、ハチスはすでにキッチンに立っていた。
「おはようございます」
昨日の使い残りで作ってくれた朝食を食べる。美味い。ハチスはまた家事の練習をしながら、時折パソコンをいじっていた。面接の動画を見ているようだった。
昼飯を食っていると、ハチスは出かけると言い出した。
「昨日の応募で、書類審査が通りました」
「はえーなおい」
絶対顔採用だな。まあ、決まらないよりはいいだろう。
俺のカメラテクが炸裂しちまったか、天使は元来写真写りが良いのかもしれない。
「これから面接へ行ってきます」
「おう、いってら」
「いってきます!」
「あ、空飛ぶなよ~」
「はい!」
ハチスは元気よく返事をすると、玄関先で頭を下げて出ていった。
というか私服で出ていきやがったな。私服可な面接なのかもしれない。というか手ぶらで大丈夫か? まあ天使パワーで何とかなるだろ。不採用だったら……顔がいいし素直だから何とでもなるさ。
俺は代わりに洗濯機を回した。掃除もした。布団も干し、部屋を片付けた。
ハチスが帰ってきたら、どんな仕事に就いたのか聞いてみよう。楽しみに待つことにした。
夕方になり、ハチスが帰宅した。
「おかえり。どうだった?」
「おかげさまで、無事採用されました」
「そうか、よかったな」
「はい」
ハチスは疲れていたのか、浮いたまま俺のもとまで来た。俺はハチスを抱きしめるとぐるぐる回って、ソファへ押し倒した。
「で、何の仕事なんだ? やっぱりコンビニか?」
「いえ、違います」
「じゃあ何だ? 言っておくけど、キャバクラとか風俗はだめだからな」
「違います」
「え、違うの?」
「はい」
「ええ……」
俺はちょっとだけがっかりした。効率に特化してそういう場所に行くかもしれないと予想していたのだ。でもまあ、ハチスがそんなところに行くはずないよな。
俺たちは体を起こして隣同士で座る。
「じゃあ何だ?」
「はい。あのですね」
彼は何故か少し言いにくそうに口ごもった。
「実は、補佐司祭として、教会で働くことになりまして」
「補佐……何だって?」
「ほさしさい、です。試用期間が三か月ありまして、それから正社員として採用いただけるそうです」
聞いたことがない役職だ。というか天使が教会で働くって……適材適所、地産地消、水を得た魚――――そんなことわざが頭をよぎる。
「どんな仕事なんだ?」
「はい。簡単に言うと、お忙しい司祭様の補助的な役割をする人です」
「補助……つまり雑用係みたいなもんか」
「ざつようがかり、という言い方は初めてされましたが、そのようなものです」
ハチスは微笑んだ。この顔に司祭様はノックアウトされたんだろうな。
「それは、給料もいいのか?」
「はい。ただ、その分責任のある役目です」
教会のこととかよくわからないが、稼げるならいいか。
「それで、具体的には何をするんだ?」
「主に、信徒さんへの説法のお手伝いや、事務作業などでしょうか。スケジュール管理をしたり、お茶をいれたり、資料をまとめたり」
「ふーん。楽しそうだな」
「楽しいかどうかは、私にもまだわかりません。ですが、精一杯頑張りたいと思います」
ハチスはきりっとした表情で両手を胸の前でグッとした。
「そうか。まあ、頑張れよ」
「ありがとうございます」
今は月半ばなのだが、彼が頑張ってくれれば家賃を賄えるだろう。間に合わなさそうだったら、二、三万くらいなら俺が何とかできる。
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