💰血塗られた盾
「くあっ、ふああぁぁぁ」
眠い。もうすぐ昼になろうというのに眠すぎる。あくびがとまらない。
昨日は夜遅くまで、というか明け方まで試作品を作っていた。
「試してみたいことはできた?」
「ああ。バッチリだ」
試作品を取り出し、チトセの前に出す。
いくつか作った中で、一番よくできたヤツだ。
「ふぅん。コレがねぇ」
チトセが試作品を無造作に掴みあげる。
あっ、あっ、あっ、ちょっと。
もう少し丁寧に、あっ、そんな乱暴にしたら壊れちゃうから。
パキッ。嫌な音が執務室に響いた。
パーツが一つ折れ、コンと軽く小気味よい音を立てて机に落ちた。
「あ」
「ああああああああ!!!!」
「あの……、ごめん、ね」
「俺の力作があああああぁぁぁ」
「ごめえええぇぇん!!!!」
小一時間かけて、なんとか元通りに直した。
「なんですか……コレ」
「……最高に趣味悪ぃな」
ダリスが夜なべして作った力作を見たジュハとヨミの第一声である。
ラウンドシールドの表面を、ナーガリザードの赤黒い鱗でビッシリと覆った試作品。言うなれば『うろこの盾』だ。
国民的人気ゲームに出てくる『うろこの盾』はドラゴンを想起させるエメラルドカラーだったが、こちらはブラッディレッド。酸化した血液のような色をしている。
まるで返り血を浴びたような
「見た目は……ちょっとだけ怖いけど、性能は良いんだ。ほら、持ってみてくれ」
「えっ、僕ですか!?」
「当たり前だろ。これはジュハの盾なんだから」
「あ、これ僕のなんですね。……………………はい、わかりました」
ずいぶんと長く葛藤した後、ジュハは盾を手に取った。
嫌だけど仕方がない、という気持ちを全く隠せていない。
恐る恐る、というよりも、汚いものを触るかのように。
ジュハが指の背で盾の前面をノックする。
さらにはくるくると盾を回転させたり、取っ手を掴んで構えてみたり。
ひとしきり触り終えた頃には、さっきまでの
「まるで金属のように硬いですね。それに丸みがあるから、敵の攻撃を逸らしやすい。重さも……ラウンドシールドより少し重たいくらいで、邪魔にならないです」
「だろ! いやあ、苦労したんだよ。うまく丸みが出るように鱗を重ねて、でも重ねすぎると盾が重くなるから、こうバランスを取るのが難しくて――」
「これを……ダリス様がご自分で?」
「お、おう」
盾を両手で持っていたジュハが、そのまま抱きしめる。
顔がうつむいていて表情は伺えないが、身体が小刻みに震えていた。
え?
なに?
怒ってんの?
泣いてんの?
ハッキリ言ってくれ!
「ダリス様が、僕のために……」
「えっと……ジュハ?」
「どう、して、ですか? ぐすっ。僕は亜人で、奴隷なのにぃ」
ジュハが顔を上げ、濡れた目でダリスを見る。
めっちゃ泣いてた。これでもかってくらい涙がこぼれていた。
どうして、という問いに答えるなら。
この盾を商品化するためのテスターとして、まずはジュハに使って貰いたかったからだ。あと、ラウンドシールドがすぐ壊れるからどうにかしたかった、っていうのもある。
なんだけど、とてもそんなことを言いだせる空気じゃない。
「ジュハはいつも頑張ってくれてるからな。これからもよろしく頼む」
「…………ッ!?」
「使いづらかったら、いつでも言ってくれ」
「ぐすっ、はいぃ」
涙声で返事をすると、ジュハはうろこの盾を大切そうにギュッと抱きしめた。
ついさっきまで『なんですか……コレ』と嫌悪感を露わにしていたのに、ダリスが自分のために骨を折ってくれたのだと思い込んだことで、まるで宝物のように感じているようだ。
なんだか純情な子を騙しているようで、少しだけ心がチクチクするなぁ。
「おいおい。それじゃあ、アタシが頑張ってないみたいじゃねぇか。アタシには何かないのかよ?」
それまで黙って様子を見ていたヨミが、ニヤニヤしながら軽口を飛ばしてくる。
彼女の性格から考えて、本当に何か欲しいわけではなく、ただ揚げ足を取れそうだったから取っただけだろう。
だが。
「もちろん、あるぞ」
「はあっ!?」
「ヨミもいつも頑張ってくれてるからなあ」
口を大きく開けて驚いているヨミを、ニヤニヤと見返しながら、ダリスは矢束を取り出して机の上に置いた。
その矢の先端。取り付けられた
💰Tips
【うろこの盾】
某国民的人気ゲームで有名になった、RPGでは序盤で手に入ることが多い盾。
前衛から後衛まで幅広く装備できる軽さ、そして性能のわりにお値段が手頃であることがウリ。
金属などの小片を鱗状に貼り付けた『スケイル』とは別モノである。
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