💰トニカクウツクシイ
自室のベッドでゴロゴロと転がりながら、チトセは瞼の裏に焼き付けたご尊顔を思い返す。きっと今、表情筋は緩みっぱなしになっている。こんな姿は、他の人には見せられない。
「⦅ああ、眼福。眼福⦆」
※⦅⦆内は日本語です。
今日、ダリスと一緒に行った奴隷売り場。
ウサギのような少年ジュハと、超絶美人のお姉さんヨミを新たな仲間に迎え入れ、チトセはご満悦だ。
「⦅ヤバいなあ、どんどん視力が良くなっちゃうなあ⦆」
キレイな人やカワイイ人を見ていると目が良くなる。そんな気がする。
それはきっと、彼らが世界を明るくしてくれるから。
亜人の少年ジュハはトニカクカワイイ。
元の世界なら芸能界にいても不思議ではない、カワイイ系のウサ耳ローティーンボーイ。
「⦅亜人……亜人かあ。ウサギっぽいのがいるってことは、ネコっぽいのとか、イヌっぽいのとか、コアラっぽいのとか、色んな亜人がいるのかも? やばっ、ちょっとこの世界が楽しくなってきちゃった……かも⦆」
元の世界に帰りたい、という気持ちは今でも変わっていない。
だけど、昨日までの「すぐにでも家に帰りたい」から「ちょっとこの世界を楽しんでからでもいいかな」くらいには柔らかくなった。
カワイイ上に動物要素まで入っているとか反則。
昔から動物が好きだったチトセにとって、動物が人型に変身したような姿の亜人は、圧倒的に好みのジャンルであった。ジュハの頭頂部近辺に生えている長い耳、あの耳のモフモフをちょっとでいい、ほんのちょっとでいいから触らせて欲しい。
「⦅でも、急に『耳触らせて』とか言ったら引かれちゃうよね。まずは仲良くならないと……。ああああああ! ここにきて言葉の壁がボクの前に立ちふさがるぅ!⦆」
手足をバタバタさせて、ベッドの上でのたうち回る。
超絶美人のお姉さんヨミはトニカクウツクシイ。
あれはもうハリウッド女優の域。巨乳でありながら腰はしっかりとくびれていて、ただよう色気は人を惑わす。思わず「えっろ」と本音をこぼしてしまった。
「⦅美しすぎてビビった。ずっと見ていたら視力が良くなるどころか眩しすぎて失明してしまうかもしれない。あんな美人が奴隷として売られているとか、この世界は一体どうなってんの?⦆」
チトセを拾ってくれた元日本人のオッサン少年、ダリスもそれなりに顔は整っている方だと思う。だけどヨミを見てしまったら、比較してしまったら、もう全然ダメ。その他大勢に埋もれていく。
あっ。いま胸がズキッとした。
ダリスでダメなら、チトセなんかもっとダメだ。
しかも同性だから公開処刑の意味合いがより強くなる。
「⦅隣に立っていたら、ボクなんか女にもカウントされないだろうな。でもそんなことはどうでもいいんだ⦆」
ヨミという神が創りあげた芸術品を、近くで鑑賞できるという特権。
それに比べたら全ては些末な事。
そもそも小さな胸とくびれのない腰を持つ月並みな日本人体型のチトセが、神の創りあげた芸術品であるヨミお姉さまに対して劣等感を抱くこと自体がおこがましいのだから。
「⦅でも、アレはちょっと言いすぎちゃったなあ⦆」
こんな美しいヨミお姉さまを前にして、まさかダリスが『買わない』なんて選択肢を選ぼうとするなんて。もしあのまま買わずに帰っていたら、ヨミお姉さまはどこぞのハゲデブキモ貴族に買われて、無理やり手籠めにされてしまうに決まっている。
だから……つい。
色々と言ってしまった。
とっさに『奇貨居くべし』なんて故事成語まで持ち出したけど、あんな言葉に意味なんてない。ただヨミお姉さまを買わせるのに都合がいいから持ち出しただけだ。
格言だとか、ことわざだとか、ああいったものに根拠は無い。
にもかかわらず、何となく相手に「なるほど」と思わせる効果がある。
自分に都合の良い格言を持ち出すだけで、なんだか正しそうに聞こえてしまう。
そんなただの詭弁を、チトセは偉そうに語ってしまったわけだ。
挙句の果てに『ビジネスで成り上がりたい、とか言ってたくせに。この程度のリスクで
思い返すと、顔から火が出るほど恥ずかしい。
投資を伴うビジネスというものは、どれもこれもギャンブルだ。
絶対に成功するし儲かる、なんて話はまず間違いなく詐欺。
もしくはインサイダー取引のような犯罪。世の中はそんなに甘くない。
自分たちのことを振り返ってみれば、奴隷を買うのも、武具を揃えるのも、衣食住の面倒をみるのも、全ての費用はダリスが負担しているわけで。投資リスクを背負っているのはダリスだけ。
もしチトセが彼と同じ立場だったとして、他人から「日和ってんじゃねぇよ」とか言われたら「うるせぇ、外野は黙ってろ」って思う。
チトセは今日のことを少しだけ反省している。
せめてものお詫びに、彼のふんわりしたビジネスとやらが破綻しないよう、手助けするくらいのことはしてあげようと思った。
💰Tips
【インサイダー取引】
有名な投資会社の社長が逮捕されたり、有名タレントが事情聴取を受けたり、時おり世間を賑わす、金融商品取引法違反の犯罪。
ある会社の重要機密である内部情報を利用して、情報が公表される前に会社の株式等を買う(または売る)ことで、不当に利益を得る行為。
結局、警察に捕まったら利益以上のお金を没収された上に、懲役刑や罰金刑を受けることになるので「絶対に儲かる」は大きなウソ。
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