💰燃えろよ、燃えろ
「⦅例えば、ここにいる彼。戦闘力はEだ⦆」
※⦅⦆内は日本語です
檻の中にいるウサギ型の亜人を見て、そのステータスを鑑定した結果を口にする。
「⦅ダリスとあまり変わらない⦆」
「⦅俺のことはほっといてくれ。まあ、つまり弱いんだ。だから戦闘用の奴隷――戦奴ではなく、こうして見切り品のコーナーに並んでいる。だが、俺には彼のステータスをもっと詳細に見ることができる⦆」
【ウサギ型の亜人のステータス】
――――――――――――――
戦闘力 E
属性 水
勇気 B
集中力 E
反射神経 A+
魔力 B
成長速度 A
成長限界 C
――――――――――――――
「⦅まずスゴいのは反射神経がA+、チトセと同レベルってところだ。それから魔力がBで上位冒険者と遜色ない。勇気もBで敵の矢面に立つ前衛に向いている⦆」
これは奴隷を戦闘力だけで振り分けるから起こる現象だ。
戦闘力では、力の強さと耐久力――いわゆるフィジカル面しかわからない。
だから、こういう逸材をすくい損ねてしまう。
見るからに貧弱なこのウサギ型の亜人は、戦闘力の鑑定も受けさせて貰っていない可能性が高いけど。
「⦅……結局のところ、このウサギさんは強いの? 弱いの?⦆」
「⦅強い、弱いの二択なら断然弱い部類だ。ソロでダンジョンに行けば、入口に出てくる黒リスにも勝てないだろうね。……だけど⦆」
ダリスはしゃがみ込み、ウサギ型の亜人の身体をじっと見つめる。
貧相な身体つきではあるが、太ももを中心とした足回りの筋肉だけはしっかりしている。
ウサギ型の亜人は、やはりウサギとよく似た体の構造をしているのかもしれない。
「⦅それは相手を倒す攻撃力が無いからだ。パーティーの前衛で、敵の注意を引きつけて、攻撃を避けることに専念させれば立派な盾役になれる⦆」
「⦅盾役……⦆」
チトセの眉間にシワが寄った。
何を気にしているのか、は何となくわかる。
盾役とは「誰かを盾にする」という意味にも聞こえる。
それは日本人の感覚から言えばイメージが悪い。
「⦅そんな顔をするな。ゲームなんかでは普通のことさ。パーティーってのは役割分担が重要なんだ。盾役が仲間を守っている間に、モンスターを斬り伏せるのが剣役であるチトセ。そこに上下も優劣もない。あるのはチームワークだけだ⦆」
「⦅……チームワーク⦆」
チームワークという言葉で、チトセの眉間に寄っていたシワの数が少なくなった。
もう一押ししておこう。
「⦅サッカーやバスケットにもオフェンス、ディフェンスって役割があるだろ。簡単に言うと、盾役はパーティー戦のディフェンスなんだよ⦆」
「⦅わかった。……なんとなく⦆」
「⦅なんとなくでも伝わって良かった。ついでに言うと、彼の魔法属性は水で回復魔法の素養がある。つまり、敵の注意を引きつけて、敵の攻撃をかわしながら、パーティーの回復もできる守りのプロフェッショナルになれる可能性が高い⦆」
「⦅守りのプロフェッショナル……ちょっと格好いい⦆」
「⦅だろ? 一対一の戦いしかできない君をサポートするポジションとして、まさに適役なんだ⦆」
ここまでの説明で腑に落ちたのか、チトセの眉間からはすっかりシワが消えていた。今はダリスの隣にしゃがんでウサギ型の亜人を興味深そうに見つめている。
小声で「⦅こっちにおいで⦆」とか「⦅どこから来たの?⦆」とか声を掛けている様子が、ペットショップでケージに入っているウサギに話しかけているようにしか見えず、少しだけ不安だ。
見た目はウサギっぽいけど、れっきとした『人』だからな?
あと、日本語で話しかけても伝わらないから。
一向に反応が返ってこない状況に飽きたのか、チトセはスカートをパンパンと両手ではたいて立ち上がった。
「⦅魔法の……属性、だっけ。ボクはなんなの?⦆」
「⦅君の属性は火だ⦆」
「⦅火……。なにができるの?⦆」
「⦅火は攻撃特化。なにができるかで言うと……燃やせる?⦆」
「⦅燃やせる……って。えっ、こわっ⦆」
チトセが自分で自分の能力にドン引きしている。
攻撃特化の火の魔法は、アタッカーとの相性が良いから、前衛で大剣を振るチトセにぴったりの属性なんだけどな。
「⦅水属性は回復、土属性は状態異常、風属性は状態回復、闇属性はステータスデバフ、光属性はステータスバフが得意だ。もちろん各属性とも直接的な攻撃魔法が全くないわけでないけど、火属性に比べれば見劣りする⦆」
古今東西を探してみても、戦争で圧倒的に多く登場している武器は『火』だ。
単純な殺傷能力でいえば、六つの属性の中で火に勝るものはない。
「⦅それと、魔法も万能じゃない。ゲームやアニメでよくある『炎や水の塊を敵にぶつける』みたいな使い方はできない。正確にはコントロールがめちゃくちゃ難しいから実用的じゃない。前方に放出する、直接手で触れる、武器や矢じりに付与する、といった方法が一般的だ⦆」
炎の塊を空中に浮かせ、それをコントロールして敵にぶつける。
敵味方が入り乱れる乱戦の中で、そんな魔法を使ったら8割がた味方を燃やしてしまうことだろう。
「⦅その点、君なら剣に炎をまとわせるだけで、大幅に攻撃力を上げることができるはず。君は前衛で敵を倒すために特化し――⦆」
「てめぇら、さっきからギャーギャーうるせぇぞ!!」
少し離れたところから、女性の声(クレーム)が聞こえた。
言葉遣いは荒々しいが、声は透き通っていて耳心地が良い。鈴を転がすよう、という表現はこういうときに使うのかもと思えるほどに。
薄暗くて気づかなかったが、ほかにもお客がいたのだろうか。
ずっとチトセと日本語でしゃべっていたのが、気に触ったのかもしれない。会話の声って結構大きいし、言語を知らないと余計にうるさく聞こえるものだから。
ダリス「あ、すみま――」
反射的に謝罪の弁を述べつつ、声のした方へと視線を向ける。
しかし、声が発せられたであろう場所に女性客の姿は見当たらなかった。
💰Tips
【属性】
魔法の系統を示し、火、水、土、風、闇、光の六種類がある。
原則として一人につき、属性は一つとなっているが、極まれに複数の属性を持つ者もいる。
属性はそれぞれ得意とする魔法のジャンルが異なる。
火:攻撃
水:外傷回復
土:状態異常
風:状態回復
闇:ステータスデバフ
光:ステータスバフ
魔法は手中に発現し、そのまま形を留めることは困難であるため、単純に前方へ放出する、直接手で触れる、武器や矢じりなど物質に付与する、といった方法で効果を発動させる。『ファイヤーボール』のように魔法で生み出した火球をそのまま投げつけるのはコントロールが非常に難しい。
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