第19話『新人騎士(合流)』

  ウライダという女性に連れられる形でクロツミは寮を出た。

 どうやらクロツミが世話になっていたのは悪霊騎士寮と呼ばれる、非公式の騎士寮だったようで、なんと出た場所はスラムだった。

 そのままスラム街を抜けて、レンと長蛇の列を並んだ水精騎士寮まで来る。道中、王城前に人だかりが出来ていたがあれは…。


 「王都内の住民から、騎士志望した親御さん達ね。気の毒だけど、彼らには現状を教えられないわ。行きましょう。」


 人だかりに視線を移すと、怒りや悲しみに暮れている大人たちが城門を叩き、門番へ抗議している。しかし、その中にオリヴィエの母親や、工房の爺さんは見当たらなかった。


 水精騎士寮に入ると、ピり付いた空気を感じた。しかし、入ってた人物を見て警戒を緩める。


「おかえりなさい隊長。悪霊の奴はなんと?」

「何もよ。」

「チッ!」


 納得できない様子の男性は、そのまま元の席へと戻る。

 変わるようにして女性の騎士が案内する。


「皆さんは2階で待機しております。」

「ありがとう。…何か変わった様子は?」

「…3名程、精神的に不安定になっていた為、個別に対応しております。」

「わかったわ。あなた達も無理せずに、交代して十分に休憩してちょうだいね。」


 女性の騎士は一礼してから下がる。

 騎士の垣根を分けて、そのまま2階へと登る。

 2階は廊下にいくつかの扉があり、一番奥の扉へノックしてから入る。


「入るわよ?」


 扉を開けて入ると、見知った顔が近寄って来る。

 真っ先にクロツミの入室に反応したのはレンだ。


「クロツミ!…よかった、無事だったんだね。」

「レン…。俺は…その。」


 予想外の反応に慄いてしまう。

 特にレンは、自分に殺されかけたのだ。

 不信を抱いて避けたり、憎しみを抱いてもおかしくは無いはずだ。

 なのに、変わり無く接して来る。

 レンに続くようにオリヴィエがクロツミに近づいてくる。

 

「えっと…クロツミさん。大丈夫でしたか?」

「オリヴィエさんも…無事そうで何よりだ。ウィリアムは?」

「少し具合が悪いようで。別室で寝ているわ。」

 

 下で言っていた精神的な不安定な一人なのだろう。

 命の危機に会ったのだ無理もない。

 

「皆さんの今後についてお話するわ。奥に座って頂戴。」


 クロツミ、レン、オリヴィエは奥の椅子へと座る。

 既に2人の男性が座っており、見覚えがある。

 森狼ヴァルトウルフの襲撃のタイミングで、反撃していた2人だ。

 視線に気づいたようで、軽く挨拶を交わす。


「ダニエルだ。…形はどうあれ、お前のお蔭で助かった。感謝する。」

「トーマス。メッツの奴の仇も手伝ってくれた訳だしな。」

「クロツミだ。…ウライダさん。話に入る前に、俺から一つ話してもいいか?」

「ええ、構わないわ。」


 深呼吸してたら、全員を見据える。

 自身の中で話すべき事を纏め、口にする。


「咄嗟の行動で皆を危険に晒して申し訳ない。自分でも制御できない力しか、あの場を切り抜ける術が無かったんだ。」


 頭を下げて謝罪する。

 しばらくの沈黙の後、各々の答えが出てくる。


「僕は、謝る必要なんて無いと思うよ?だって、僕たちを助ける為だったのでしょ?むしろ嬉しいよ!」

「私は…理由を話して頂けましたので、私から言う事は特にありません。感謝はしておりますわ。」

「俺は警戒を緩めるつもりは無いが…お前の事情は理解した。」

「…ダニエルが警戒するなら、俺も同じだ。理解もした。」


 僅かではあるが、各々警戒が薄れる。

 少なくとも、例の行動の疑惑は晴れたようだ。

 ウライダは微笑み頷いた後に、言葉を繋げる。


「それじゃあ、新人騎士の君たちを歓迎するわね。」

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