第17話『思い返し(味方)』

 クロツミは目が覚める。

 そこは見慣れない天井だった。

 簡素なベッドに寝かされていたようで、傍らには姿を変えた槍が置かれていた。

 意を決して槍に触れる。


(ようやく起きたか。まあ、魔力切れによる気絶だ。直ぐに目覚めないのも無理はないがな。)

(…その子気味良い話し方は、姿が変わっても変わらないようだな。ロゼ。)

(久しぶりに、存分に振るわれたから気分が良いだけだ。気にするな。)

(っ!)


 夢のようだが、現実だった事を思い起こさせる。

 記憶の一部を取り戻し、鬼神の如く魔槍ロゼを振るい魔物を蹴散らす姿。

 それは勇者と言うには禍々しい別物、狂戦士じみた戦いだった。

 そして、その刃は味方…レンにまで向けていたのも思い出させる。


(軽々しく使ってはいけないとは理解していた。思い返しても、あれが最適解だと理解できる。けど…。)

(自身の力に怖気づいたか?結構な事だ。だが、貴様がレンに刃を向けた事実は変わらないし、再封印などできんぞ。)


 言われなくたって分かっている。

 分かっているが、合わせる顔が無いのも事実だ。


(ロゼ……お前はいったい何なんだ?)


 クロツミの記憶と力を封印して、武器にもなる知性体。

 今まで違和感なく受け入れていたが、思い返せば思い返す程正体が分からない。

 まだ、自身が生み出した架空の存在だと言われた方が理解できる。


(残念ながら架空の存在ではないし、貴様が狂った訳でも無い。しかし…そうだな。貴様は、私が正体を言ったとして信じる間抜けなのか?)

(なんだって?)

(ただでさえ、貴様の記憶を預かる存在だぞ?未知の力に理解を示そうとする姿勢は評価できるが、お前の聞きたいのは私の存在なんかでは無いだろう。)

(それは…そうだけど。)

(聞きづらいか?ならば答えてやろう。貴様が本当に聞きたいのは、私が貴様の敵か味方かだ。私の答えは味方だ。これで満足か?)

(その答え方はズルくないか?)

(知らん。判断するのはお前だ。私は手も足も出ない存在だからな。…仕方ない。ヒントぐらいはいいだろう。)


 ため息交じりのロゼの声から、渋々と声が響く。


(私は、貴様の呪いであり戒めだ。封印そのものだと置き換えてもいい。)

(つまり俺の過去は、封印される程のモノだったという事か?)


 師匠が現れた夢のような空間を思い出す。

 かつての故郷を奪われた、怒り、悲しみ、が滲み出る。

 それは、自身を焦がす煉獄の炎に焙られる感覚だ。


(ネガティブになるのは一向に構わないが、当初の目的を忘れるなよ。)

(当初の目的?)

(借金の返済だ。無視しようモノなら、たちまち人生終了だからな。)

(そういえばそうだった…。)


 自分の事情でさえ凹んでいる最中なのに、この鬼畜槍は更に絶望の現実を丁寧に教えてくれる。

 そうだ。どちらにせよ自分は借金を返す為に、ミレパクト騎士団で最低でも1年働かなければならない。

 ならば今自分がすべき事は、自身の力を忌む事では無く、知って制御する術だ。

 自分で研究するのも大事だが…まずは。


(師匠だ。ルーチェ師匠に問い正すのが一番の近道だ。)

(それには同意だな。あのロクでなしにはキツイ灸を沿える事に、私は協力を惜しまん。)


 妙に乗り気なロゼを持ち上げて、ベッドから立ち上がる。

 服も着替えさせらえており、簡素な綿のシャツとズボンだ。

 外の扉を開けたタイミングで、外から声が聞こえてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る