第16話『暴走(幻視)』

 夢を見ているようだった。

 思うように身体が動き、目の前にいた敵はボロ布のように蹂躙される。

 そうだ。

 これこそが戦いの悦びだ。

 圧倒的な力で、自分自身が強いと思っている奴らを蹂躙する。

 あの怯えた表情を思い返すだけでも堪らない。

 更なる恐怖をバラまく為に、槍を投擲する。

 追撃を加えようと走り始める直前、何かが自分を邪魔する。

 栗毛の少女が、自身を動けないように抱き付いているのだ。

 

「邪魔だ。小娘。」


 物質制御テレキネシスで、投擲した魔槍ロゼを手元に引き戻す。

 拘束されていない左腕で魔槍ロゼを掴み取り、穂先を少女に向ける。

 躊躇い無く差し穿つ…はずだった。


「っ!!」

「?」


 魔槍ロゼは少女を刺し殺す事無く、彼女の眼前で止まる。

 少女もまた覚悟した決めた様子で、目を瞑り動いていない。

 刺し殺そうとした本人も困惑する。

 視界が再びぼやける。

 少女に視線を戻すと、輪郭がぼやけて姿が変わっている。

 自身と同じ藍髪の少女だ。

 先ほどの栗髪の少女と異なり、槍を向けられながらも嬉しそうな表情をしている。

 それと同時に槍の穂先が震えはじめる。


「お前は…いったい…。」

「クロツミ?」

(ここまでか。時間切れみたいだ。)


 ロゼの声が響くと、クロツミは強烈な虚脱感に襲われる。

 この症状には身に覚えがある。

 魔力切れだ。

 正確には、体内の7割以上の魔力が失われた時の現象だが。

 魔槍ロゼを杖代わりにして倒れないようにしようとするが、思うように力が出せない。

 結局クロツミは、気を失いレンの足元に倒れる事しか出来なかった。

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