第11話『殺人(騎士)』

レンとオリヴィエに、元々持ち込んでいる個人の野営セットを手渡して、クロツミとウィリアムは森の中を明るい内に散策する。

 ちなみに、ちゃんと準備ができるか聞いたところ、オリヴィエは商人の娘として各国を旅する事が多かった為、問題なかった。

 レンは予想通り一切分からず、オリヴィエに手取り足取り教えてもらっている。


「クロツミさん。隠れてる騎士なんて見つかるんですか?」

「傭兵でも、野営をせずに森の中で監視なんて難しい。それにオリヴィエが言っていた通り、彼が貴族出身の騎士ならなおさらだろう。」


 野営できるか質問した時に、例のレオンという騎士についても少しヒントを貰った。

 暗闇の中で蒸し暑く、寝ずに根気よく観察する。しかも、野生動物や昆虫などにも負けずに隠れるには非常にストレスがかかる。

 その道のプロでも無ければ、一日と持たないはずだ。


「だから、騎士たちの野営地を探す。魔界の門付近なら、大規模な野営地があるはずだ。もしくは……。」

「もしくは?」

(そもそも、魔界の門付近では無い可能性もあるな。)


 むしろ、その可能性が高いまである。

 わざわざ、試験に死人が出る内容を組み込む事自体が間違いだ。

 ならば、緊張感を持たせるためのハッタリだという方が信ぴょう性がある。


「ん?あれは……なんだろう?」


 ウィリアムが指さす方向には不自然な窪みがあった。

 近づくと草木の生えていない空間と、人為的に並べられた石があった。

 

「お手柄だなウィリアム。野営の痕だ。……定期的に使った痕があるな。移動痕は……。あっちだな。」

 

 けもの道を頼りに歩いていくと、異臭を感じ始める。

 ウィリアムも異臭には気づいたようで鼻を押さえる。

 けもの道を進めれば進む程、異臭はより鮮明に鉄臭さを醸し出していく。

 すごく嫌な予感がする。

 森を抜けて、広場のような場所に出ると一軒家のログハウスと、一人の頭が潰れた死体があった。


「うぐっ!?こ、これって。」

「死体…だな。しかも新しい。」

「ど、どうしよう?どうしよう!?」

「落ち着け。ウィリアムは、周囲を警戒していてくれ。俺は、こいつを調べる。」

(同意だ。イレギュラーな事態とはいえ、原因の追究はした方がいい。いった何が、騎士を殺した?)


 クロツミの制止で落ち着きを取り戻したウィリアムは、指示通りに警戒をし始める。

 さて、調査の時間だ。


(死体は……服装からして騎士だな。武器を抜いた形跡は無しと。)

(となると休憩中襲われたか、裏切りに会ったかだな。)

(後者は勘弁してほしいな。)

(…どうやら前者のようだ。死体の周囲の土を注意深くして見てみろ。)


 クロツミは注意深くしたい付近の土を観察する。

 複数の大型動物の足跡が重なって、土が踏みしめられているのに気づく。

 そして、死体の頭部の潰れ方が何かに叩き潰されたようにも見える。

 つまり……。


(大型動物……いや、魔物に襲われた可能性が高いな。)

(人を叩き潰すサイズの動物は、生憎知らないな。……3メートルはあるか?)

(最低でもな。)


 つまり、本当に魔界の門付近だったという事だろうか。

 いや、それなら騎士が死んでる理由の謎が更に深まる。

 考えられる予想は二つ。

 魔界の門で予想外の魔物が溢れ出した。

 魔界の門以外の場所で、大量のはぐれが現れた。

 だがそれは今は重要ではない。

 レンたちが危険だ!


「ウィリアム!戻ろう!この森、思ってたよりも危険な状態なのかもしれない!」

「あ、ああ!!」


 ウィリアムは怯えつつも、クロツミに付いていく。

 そして夜が来たのだ。

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