第5話『秘密の特訓(見張り)』

 翌朝、ロゼに叩き起こされた。

 二度寝を決めようとしたら、甲高い声で罵声の雨が飛んできたのだ。

 眠ってるどころではない。

 シワシワの目を擦って夜明け前の外へと出る。

 焚火も絶やさず燃えており、見張りを探す。

 折角早く起きたのだから、見張りの手伝いぐらいはするべきだろう。

 装備を整えて、見張り位置の丘に登る。

 そこには予想外の人物がいた。

 雷鳥騎士隊ことカルドだ。

 上下を薄着で獅子流こと”ベルガー流”の剣術訓練中のようで、朝日を背景に美しい剣術が密かに披露されていた。

 警戒も怠っていなかったらしく、訓練を中断してクロツミに意識を向ける。


「思ったより早い目覚めじゃないか。傭兵というのは早起きなのか?」


 ロングソードを肩に乗せて聞いてくる。

 だが、思春期の彼には少々刺激の強い姿だ。

 若干目をそらしつつも返答する。


「ロゼ……じゃなくて、迷い込んだ猫に起こされました。」

「む、猫を見逃してしまったか。修行不足だな……。残念だ。」

 (こいつは、ネズミ一匹通さないつもりだったのか?)

 (分からないけど、訓練しながら警戒できるなんてすごいね。)


 カルドは嘆息しつつもロングソード鞘に納めて上着を着る。

 そのまま丘を降りてクロツミの近くまで来る。


「それにしても、私の剣術を知ってる様子だったな?隣国でも有名なのか?」

「ファウダラ連邦で”獅子騎士”を知らない人は居ないと思いますよ。」

「だろうな。」


 獅子騎士の話題になると、カルドは破顔する。

 強い武人の話の話題だからだろうか?


「カロリス峡谷の戦いの話は余りにも有名ですからね。俺も子供の頃に噂で聞きましたが、何かのジョークかと勘違いした程です。」

「そうだろう。軍を一人で受けきる英雄譚は聞いていて熱くならない訳が無い。……それに、私も現場にいたからな。」

「まさか獅子騎士の軍勢に?」

「それこそまさかだ。私が子供の頃にな、救われた事があるってだけさ。……無駄話をしたな。交代の時間だ。」

 

 遠くを見ると、2人の騎士が歩いてくる。

 あちらも予想外の人物2人に驚いている。


「交代だな?ご苦労。」

「「はっ!」」

 

 入れ替わりのタイミングで、二人に事情聴取される。

 すごく心配そうな様子でクロツミを見ている。


(傭兵!大丈夫か?四肢を折られたり、内臓をやられたりしてないか?)

(あ、会ったばかりなので。え?何ですか?物騒な。)

(前に跳ねっかえりの新人騎士を、朝の訓練時に半殺しにした事があってな…。ここは王都じゃないから、即座に治療できないから心配だったんだ。)

(ひぇ。)

 「見張り諸君。楽しそうな雑談か?私も混ぜてくれないか?」


 3人を見ている雷鳥騎士。

 僅かにロングソードが抜かれてるのは気のせいだと信じたい。

 2人の騎士は脱兎の如く見張りに戻る。

 クロツミも慌てて簡易拠点へと戻り、出立の準備を始める。

 残された雷鳥騎士は、鼻で笑いながら自分の天幕へと戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る