第2話『目覚め(電撃)』

 身体を揺さぶられる。

 何度も何度も眠りを妨げるように。

 

 (う……ん、もう少し寝かせてくれ……)


 揺さぶりが強くなる。

 そして声も聞こえてくる。


「ーーなさい。ーーー起きなさい。」

(誰だ?母さん?いや、姉さん?……もう少しだけ…)


 揺さぶりが止まる。

 聞こえる声もはっきりと聞こえる。


「起きなさい。クロツミ。早く目覚めないと、酷い目に合ってしまいますよ。」


優しくて聞き覚えのある声だったが、聞き捨てならなかった。


 (ひどい目ってな……)

  

ーーーバチバチバチ


 全身に電気が走るように痛みを感じる!

 目をチカチカさせながら、暗闇から起こされる。

 目の前には、椅子に足を組んだ20代前半の金髪ショートの女性と、慌てた様子の茶髪の冴えなさそうな男性が立っていた。

 自分は……敷布と藁のベッドで寝かされていたらしい。


「ほら、起きただろ?フィリップ。」

「”ほら”じゃないですよ!一般人だったら、どうするつもりですか!私は副団長や獅子騎士様に、感電死体の報告するのは嫌ですよ!?」

「手加減したし、目覚めたんだからいいだろ?さて……おはよう青年。気分はどうかな?あ、ミレパクト語通じる?」

「ーーーえっと…概ね元気です。言語も、得意ではないですが大丈夫です。」


 本当は通じやすい”リアン語”の方が良かったが、受け答えならできるので我慢する。

 それよりも、今頃だが拘束されている。

 つまり、警戒されているという事だ。


「それは良かった。それじゃ、早速自己紹介だ。私はミレパクト騎士団の≪カルド=ケラヴィノス≫だ。君は?」

「……≪雨宮クロツミ≫です。”ファウダラ連邦”で傭兵をしていました。」

「う~ん?変わった名前だね?フィリップ。こういう名前、聞いた事ある?」

「ありませんね。まあ連邦の傭兵なら最北から来ていたとしても、おかしくは無いでしょう。」


 傭兵と名乗ってからは、二人とも納得した様子を示す。

 だが依然として警戒は解かれていない。


「次の質問だ。……えっとクロツミくん?アマミヤくん?」

「雨宮で構いません。」

「雨宮君。君はどのような目的で”ミレパクト王国”に訪れた?そして、村に居た理由はなんだ?」

「……。」


 一瞬だけ目が泳いでしまう。

 フィリップが剣の柄に手をかける。


「まあ落ち着けフィリップ。……なぁ雨宮くん。ここは騎士の簡易拠点だ。軽く30人は居る。逃げる場所も無いし、応援が来たりもしない。安心して話してくれ。」

「えっと、そういう理由じゃなくて。……俺が王国に来たのは騎士になるためです。あと……村に来たのは行き倒れです。水が尽きてしまって…。」


 羞恥の表情でクロツミは答える。

 まあ恥ずかしいのも仕方ないだろう。

 目の前に就職希望先の騎士が居るのに『私は行き倒れた間抜けな元傭兵です』と告白するようなモノだから。

 カルドとフィリップは、間抜けた表情をしてから耐えきれずに笑う。


「あはは!ごめん!それは確かに言いずらいね!」

「むふっ!ーーんん!となると……状況は出戻りですね。住民が消えた証拠はゼロのままですね。」

「えっ!?助けてくれた人たちが……いない?」


 予想外のワードに問返してしまう。

 落ち着いたカルドは、含み笑いをしつつも返す。


「ああ。私たち”雷鳥騎士隊”は大型の魔物の報告を受けて辺境まで来たんだ。だが、当の村はもぬけの殻。魔物の影すら無し。”巨人(ジャイアント)”か”混合獣(キメラ)”辺りを期待してたんだけどね。」

「隊長。死人が出るレベルの魔物を期待するのは勘弁してください。」

「あれ?魔物って”障壁”があるから来ないんじゃ……」


 魔物。

 意思疎通の聞かない化け物。

 1匹でも暴れれば、村は破壊され住民は抵抗すらできず殺される災害。

 その種類は多種多様と言われてるが、実際に見た事は無い。

 というのも我々人間の生存域と、魔物のいる通称”魔界”は”障壁”という魔法的な壁で仕切られており、人間も魔物も行き来することは叶わないのだ。


「いやね、ミレパクト王国には”魔界の入り口”があるでしょう?あそこを中心に障壁が薄い所が多々あるらしくてね。”はぐれ”っていう、迷い込んだ魔物が出る事が多々あるんだ。」

「隊長。一応機密情報です。」

「どうせ村人も知ってるからいいでしょ。」

「その事実を認めるのがマズいんですよ!しかも彼、傭兵ですよ!!」

「騎士希望なら大丈夫でしょ?」

「あぁ~、もう!」


 ……なんとなく、フィリップという人が非常に苦労しているのだと同情した。

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